今から、人工授精が行われる。



アリュミーナは天井を見上げ、祈った。

━━どうか、痛くありませんように…!

「では、失礼致しますよ。」

老婆は薄布を少しだけ捲り上げるとアリュミーナの陰部に触れ、膣内に器具を挿入した。金属製のそれはひんやりと冷たかったが、痛みは感じなかった。

其処から更に、透明のチューブが挿入される。

「直ぐですので、動かないで下さいませね。」

「は、はい。」

彼女はしっかりと両手を胸の上で握り締め、堅く目を瞑った。

「はい、終了致しました。」

老婆の言葉と同時に、膣口を固定していた器具が外された。アリュミーナは何とも言い表し難い解放感に包まれ、大きく息を吐く。

「終わった…んですか?もう?」

「ええ、はい。」

老婆は皺だらけの顔でゆっくりと頷いた。

「受精しなかった場合は、今日からおおよそ二週間後に月経が始まります。三週間経っても月経が来なければ、またこちらへ御出で下さいませね。」

「はい。分かりました。」

内診台から下りたアリュミーナは下着を着けると、重々しい表情で老婆に話し掛けた。

「母様は直ぐだったのよね。私はどうかなあ。」

「授かり物で御座いますからね。こればっかりは、婆にも分かりません。」

母親は現在の自分の年齢の時には既に腕に赤ん坊を抱いていたのだと思うと、アリュミーナはその重責を改めて負荷に感じた。

「これ、毎月するの?」

「基本的にはそうで御座いますが、お辛いようでしたら、そうでなくても結構で御座いますよ。」

「別に辛くはないけど、」

彼女は其処で言い止した。

産婆が言っているのは、ベネディクトの事だ。彼等は婚姻から既に十年が経過しているが、未だに子供を持っていない。

「レーヴェ様は『子を生すのも重要な役割』と仰っておりましたが、べティ様は『強制はされたくない』と、御意見が相違されておりますからね。」

「そうなんですか…。」

これまで、選択の自由とはほぼ無縁の人生を歩んで来たアリュミーナにとって、ベネディクトの心理と行動は理解し難いものだった。

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