ベネディクトの目的は、リュユージュの戦闘に対する恐怖を無くす事や、或いは負った心的外傷の緩和である。

それに加え、運動能力を一時的に高める為の筋肉増強剤や、頸部の交感神経系の中枢の束に注入する局所麻酔薬も用いられた。

他にも、脳内の分泌物を過剰に放出させる事により感覚を弱らせて痛覚を鈍らせる合成麻薬など、多数の薬物が使用された。



その為に彼は、長時間に及ぶ衝動性の亢進などの副作用を抱えて行かなければならない身体となってしまったのだ。

更に重篤な症状が、顔面の著しい筋肉の弛緩だ。

故にリュユージュは、表情を変化させる事がほとんど出来ないのである。

だが彼は表情を失いこそすれ、その感情を失う事はなかった。

これが幸運か不運かは、当人にも判断がつかないであろう。






真実を知ったヘルガヒルデはこれに激怒し、ヴェラクルース神使軍 第一隊隊長を固辞。フェンヴェルグをも巻き込んでの大騒動を引き起こした。

しかし前述の様に、フェンヴェルグはヴェラクルース神使軍に対して、絶対的な制圧権は有していない。

言わば彼等の仲裁に入らせられた様なものだが、これが功を奏した。さすがのヘルガヒルデと言えどもフェンヴェルグに意見されては抗言する訳には行かないのだ。

ヴェラクルース神使軍を退役する意向は譲らなかったものの、彼等や王国に敵対はしない事を堅く誓った。

この一件に関して、ヘルガヒルデは特に処罰は受けなかった。ルード家の不動の権力を誇示した事件とも言えるだろう。



そして、現在。

リュユージュへの過剰な薬物投与に対して異を唱えたもう一人の人物が現れた。

それが、レオンハルトである。

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