「全く、本当に強情ね。骨が折れるわ。」

ベネディクトが再度、溜息を吐いた時。

ヴィンスが居室に戻って来た。

彼は落としたての珈琲をベネディクトに渡した後、もう一つをテーブルに置いた。そして自身は二人からは少し離れて窓際の飾り棚に寄り掛かかると、庭園を眺めながら静かに口を付けた。



ヘルガヒルデは置かれた珈琲を手に取ると長椅子に戻り、再度ベネディクトに退去を促す。

「どれだけ粘ろうと時間の無駄だ。とっとと帰れ。」

それを聞いたベネディクトは、些か苛立っている様子だ。

「一体、私に何を望んでいるのよ。土下座でもすれば良いのかしら?」

「何だ、それは。手前の土下座に価値があるとでも思ってるのかい?自惚れるにも程があるってもんだぜ、将軍様よ。」

「な、何ですって!?」

ベネディクトは未だかつて一度も、こんな侮言を吐かれた経験は無い。

生まれながらにして聖王を凌駕する程の大権を有する彼女は周囲から尊崇され敬慕こそされ、恥辱を受けるなどあってはならない事であった。

立腹するベネディクトに対して、ヘルガヒルデは苦笑を漏らした。そして愚弄にも似た視線を向けると、冷淡に言い放った。

「いいかい、ベネディクト。手前は取り返しの付かない事をしてしまったんだよ。地獄で後悔するがいいさ。」

有無を言わせぬヘルガヒルデのその態度は自分に対する幼稚で単純な挑発であると理解はしていたものの、ベネディクトは感情に支配されそうだった。

しかし、それが極めて難しい状況であっても理性を保ち続ける事を得意とする兄の背中と言葉が、彼女の脳裏を過った。

ベネディクトは強く拳を握り締めると、憤慨を呑み込む努力をした。

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