「何しに来たの。」
リュユージュは厭わしそうな口調で、ギルバートを屋敷に招き入れた。
客間に通されたギルバートは驚嘆の余り、ただただ口をぽかんと開けて室内の内装や豪華な家具を忙しなく見渡していた。
「聞いてる?ギル。」
「あ、ああ。金を返しに。」
「いいよ、別に。貸した訳じゃない。」
「そうもいかねえよ。『絶対に返して来い』って言われて来たんだ。そんで、『使った分は分割になるけど必ず全額返済する』って伝えてくれ、って。」
ギルバートを検索する為の資金やアンジェリカの当面の生活費は、全てリュユージュが用意した物だったのだ。
現在の住まいを借りる為の敷金や、最低限必要な生活用品の購入等、アンジェリカは日付と金額を記入したものを同封していた。彼はそれに簡単に目を通す。
「金なんかどうでもいいけど、彼女が僕に借りを作りたくないと言うのならば受け取るよ。」
「少し隊長さんの話しを聞いたよ、謹慎処分を受けてるって…。そんな大変な時に俺達まで迷惑かけちまって、本当に申し訳ない。だからせめて、金だけは返させて欲しい。」
ギルバートは頭を下げ、リュユージュに懇願した。
「と言っても、身から出た錆だけどね。真面目に勉強してなかったから定期試験は毎回赤点ばかりだったし、授業中もだいたい寝てたしな。」
意外な程に普通の学校生活を送るリュユージュが想像出来なくて、ギルバートは吹き出した。
「ところで、減給処分だと聞いたけど…。大きなお世話だが、生活どうしてるんだ?」
「親。」
当然と言えば至極当然な返答内容なのだが、相手がリュユージュとなると話しは別だ。
「なに。」
「いや…。何か、変な感じだなと思って。」
リュユージュは首を傾げて見せる。
「僕、甘藍(キャベツ)から生まれた訳じゃないよ。」
ギルバートは失笑した。
お互い、無言で珈琲を啜る。
暫くすると、リュユージュがその沈黙を破った。
「ねえ、ギル。どうしても僕には理解が出来ないんだよ。」
リュユージュはほんの僅かな哀感を、その翡翠色の瞳に乗せた。
「君達が利他的に生きる理由を、僕に教えて欲しいんだ。」
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