フィータスの集落に、夜の帳が降りた。

隣のセブンは既に高いびきだ。

アンバーは何度も何度も、寝返りを打つ。



幸い、セブンが過去や来歴を必要以上に追及する事はなかった。

セブンが必要としているのは剣士としての彼の腕前だけであり、恐らく他は要らない物なのだ。

故に、アンバーが提示した条件も手早に承諾したのであろう。



━━要は「一人で動きたい」って事だよな?

━━ああ。それと、俺がどれだけ危険な状況に陥っていようが、あんたを含めフィータスの人間は助力する必要はない。職分や作業を全うするなり放棄して離脱するなり、好きにすれば良い。逆に、任務遂行に影響がなければ俺も他の連中に手を貸す事は一切しない。

『誰にも依らないから、誰も依らせるな』と言った、彼の確固たる条件を呑んだのだ。






アンバーは徐々に襲い来た眠気に逆らわず、意識を手放した。












━━ねえ、君の名前は?



━━ふうん。アンバーって、琥珀?



━━君の瞳、琥珀色だね。



━━知ってる?琥珀って、虎の魂が閉じ込められているんだって。



━━琥珀…虎…。そうだ。君の名前はね、












「━━…っ!!」

アンバーは飛び起きた。

精一杯に伸ばした腕は虚しく、空を切る。

セブンのいびきを耳にして、彼は漸く自分が夢を見ていた事を知った。



「くっ…!」

アンバーの口から漏れたのは、抑えた慟哭だった。

━━俺は、間違ってなどいない…!決して!

その琥珀色の瞳から、止め処無く涙が溢れ続ける。

━━例え、あなたに届く事がなくても…、俺は『義』に背いたり致しません…!

両手で顔を覆い、嗚咽が漏れぬよう彼は強く歯を食い縛った。



━━どうか、どうか、取り戻して下さい…!それ以外、俺は何も望まない…!



彼は大切なその名を捨てて尚、不動不変の忠誠を誓った。

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