「何ぞ、御変わり御座いません事?」

シエルラはフェンヴェルグに笑顔を向けながら着席する。その艶めかしい脚線美が、煌びやかなドレスのスリットから垣間見えた。

「うむ。其方も変わりない様だな、大公よ。」

一方、フェンヴェルグは手元の書類に視線を落としたままで応対する。

「まあ、余所余所しい。私の事はシエルラと名前でお呼び下さいと、何度も申し上げておりますのに。」

「国交に於て、その必要は無い。」

そう、彼女を強く拒絶するとフェンヴェルグはルーヴィンに指示を出す。彼はそれに従い、シエルラの前に書類を丁寧に並べた。

「書類は其処に全て揃えてあるから、目を通すが良い。」

「私はこんなもの、欲しくは御座いませんの。」

シエルラは大仰な溜息を吐いて見せた。






先頃、キャンベル海軍とバレンティナ海軍は、一戦を交えた。

ヴォーダンの要塞の国勢調査の折。不法出国を阻止する為、キャンベル海軍はプエルト連邦との国境付近を厳戒していた。

海上保安庁が有する国境警備艦隊の艦艇とは異なる海軍の軍艦の出現をプエルトの対岸に位置するバレンティナ公国海軍が不審に思い、彼等に向けて警告を発した。

キャンベル海軍の目的は飽くまでヴォーダンの要塞からの逃亡者の拿捕であり、バレンティナの領海を侵犯する事などではない。

彼等は無害通航であると考え、バレンティナ海軍からの当該活動の中止要求や領海外部への退去要求を無視した。

バレンティナ側は、再三の警告にも関わらず、キャンベル海軍は自国の制海権内に無断で侵入。そしてこれを撃退する為に攻撃した、と主張。

それに対してのキャンベル側の釈明は、無害通航は領海の侵犯には該当せず、不当な砲撃に対して反撃をしただけであると説明した。

-284-

[] | []

しおりを挟む


目次 表紙

W.A


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -