「すみません、起きて下さい。」
バースで迎えた、夜半過ぎ。
レオンハルトは周りの囚人に気付かれぬ様、寝入っている件の重刑者の肩を静かに揺すった。
「ん…?」
彼がうっすら目蓋を開けると、レオンハルトは慌ててその口を軽く手で塞ぐ。
「声を立てないで。外に出て下さい。」
重刑者は拘束具に繋がれた手首で不自由そうに起き上がると、その指示に従った。
彼等は監視員の目を盗み、資材置場に忍び込んだ。後ろ手に扉を閉めると、レオンハルトは声を潜めて語り始めた。
「自分は、十字軍 第二隊副隊長 レオンハルト・カイザーと申します。あなたは、ギルバート・S・イルザード殿に間違いありませんか?」
重刑者は俯いた。そして消え入りそうな声で答えた。
「…ああ、そうだ。」
肯定の言葉に、レオンハルトの表情は一瞬にして緩む。
「自分は、リュユージュ隊長の命令を受けて動いています。」
「やっぱし、気付かれてたのか。」
ギルバートは大きな溜息を落とした後、険しい表情でレオンハルトに向き直った。
「どんな命令か知らないが、俺にこれ以上関わらないでくれ。」
「いいえ、そうは参りません。ギルバート殿、あなたはリュユージュ隊長をご存知の筈だ。」
「ご存知も何も、そりゃ知ってるさ。」
毅然とした態度のレオンハルトに、ギルバートは苛立ちを隠そうともしなかった。
「あの方が『関わるな』と言われて、素直に『分かった』と引き下がるとお思いですか?」
その言葉に同意すると同時に絶望した彼は、項垂れた。
「俺は…もう迷惑をかけたくないだけだ…。だから…関わらないで欲しいんだよ…。」
「リュユージュ隊長は迷惑などと思ってません。冤罪ではないかと、真相を探れとの命令です。」
「いや、冤罪じゃない。隊長さんを裏切って申し訳ないが、俺は罪を犯した。」
「一体、何をしたのです?」
ギルバートは項垂れたまま、黙り込んでいる。
「あなたの罪名は?」
レオンハルトは再度、糾問を繰り返す。
それに対して、ギルバートは顔を背けて低い声で吐き捨てる様に言い放った。
「自分の口から語るくらいなら、死んだ方がマシだ。」
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