「リュユージュ隊長!失礼致します。」
自宅の寝室にてベッドに横臥していたリュユージュは、レオンハルトの訪問に溜息を吐きながら起き上がった。
「なに、レオン。」
しかし彼は玄関の鍵は開けず、そのまま扉越しに応対をした。
「は!手術の準備が整ったと連絡がありました。参りましょう。」
今や指先の感覚すらも失われてしまった、左腕。彼は包帯を交換する事さえ忘れていた。
「いいよ、明日で。」
「いけません!参りましょう。」
「行かない。」
「とりあえず、こちら開けて下さい。」
「断る。」
レオンハルトは直感した。
非常に好ましくない事態である、と。
「承知致しました。軍医殿には明日伺うと伝えます。こちら、どうか開けて頂けませんか?」
刺激しない様に控え目に語り掛けると、静かに施錠が外され扉が僅かに開かれた。
リュユージュは隙間から半分程、顔を見せた。
だが室内は闇に包まれており、また俯いているのもあって、その心情を読み取る事までは叶わなかった。
暫くしてリュユージュが口を開いた。
「誰か…連れて来い。」
その口調は精一杯に感情を抑え込んでいるであろうものであり、レオンハルトは自分の直感が正しかった事を認識した。
「は。承知致しました、ルクレツィア殿で宜しいでしょうか?」
「いや。それ以外だ。」
レオンハルトは敬礼すると、城下町の高級住宅地の一角にある、とある屋敷へと急いだ。
「レオンハルトです!失礼致します!」
彼はリュユージュの状態に焦燥を覚え、普段より若干乱暴に電鈴を鳴らすと玄関を叩いた。
「レオンハルト様、お待ちしておりましたわ!」
開かれた扉の向こうから、若くて美しい女性が姿を現した。
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W.A