バース及びデイ・ルイス復興の為、大半の隊員は留まる事となった。
首都には、リュユージュやレオンハルトを始め、負傷兵や捕虜等の僅かな人数が帰還した。
凱旋を祝福するメインストリートは花弁で埋め尽くされ、人々の喝采と熱気で溢れ返っていた。
疲労を滲ませる事なく国民に手を振るレオンハルトを目にする度に、リュユージュはいつも感心を新たにする。
とても自分には真似の出来ない行為だ、と。
リュユージュは甲冑を脱いで簡単に身形を整えると、待ち兼ねていた表情のベネディクトと共に王宮に向かった。
「リュユージュよ、大儀であった。」
王座に鎮座しているフェンヴェルグの口調は、非常に満ち足りた様子の物だった。
「下がって良い。今宵は緩りと休め。」
二人は再び深々と頭を下げると、揃って御前より退出した。
リュユージュはベネディクトに奴隷市場の調査結果を報告しなければならなかったが、王宮で公言するには差し支えがあると判断し、一旦そのまま引き下がった。
久々の落ち着いて摂れる食事だったにも関わらず、彼は急いでそれを終わらせる。
そしてベネディクトの書斎を訪問するも、彼女は留守だった。
普段ならば必ず居る時間だ。
リュユージュが扉の前で立ち尽くしていると、ベネディクトが戻って来た。
「あら。」
「あ、将軍…。」
振り向いた彼の瞳に、ベネディクトと連れ立って歩くルーヴィンの姿が映った。
心臓を射られた様な衝撃も、虫酸が走る程の不快感も、リュユージュにはそれを表現する手段がない。
それを知ってか知らずか、ルーヴィンはリュユージュを視界に入れる事もせずに立ち去って行った。
「お入りなさい。」
リュユージュはその声を聞いて視線を戻し、彼女の言葉に従った。
ベネディクトが椅子に腰を下ろすと同時に、リュユージュは口を開いた。
「該当する人物は、いませんでした。」
「あら、そう。有り難う。」
淡泊なその反応に彼は些かの疑問を抱いたが、如何せん現在のベネディクトは多忙を極めている。
彼女は大量の書類を手に、立ち上がった。
「どちらに?」
「緊急召集よ。軍法会議やら予算編成やら…、頭が痛いわ。貴方はゆっくりなさいね。」
慌ただしく再び王宮に向かうベネディクトの背中は、遠退いて行った。
リュユージュは胸底に去来する感情を抑圧するも、限界を感じていた。
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