「はあ…。」

一方、王宮に戻ったレオンハルトは、無意識に軍営に辿り着いていた。

「おや、レオンハルトじゃないか。第二隊は本日、総員公休だろう?」

彼に声を掛けたのは、青銅色の甲冑姿のクラウスだった。

「は!クラウス将官殿!」

レオンハルトは背筋を伸ばし、敬礼をする。

「王宮の警備には我々が当たっているから、心配するな。祝賀行進でも見に行けばいいじゃないか。」

「は…。」

途端にレオンハルトは声を窄めた。

「小童はどうした?」

「リュユージュ隊長は、お出掛けになられました。」

「聞いた私が野暮だった。こんな日に、奴がおとなしくしている訳がないな。」

クラウスは呆れた様な表情で口髭をなぞり、一人頷いた。

「一緒に行けば良かったじゃないか。」

「いいえ。自分、そこまで無粋ではないつもりです。」

「ああ。奴は相当な好色漢だったな。」

そう、豪快に笑う。

「しかしお前とて、女性には不自由してまい。」

レオンハルトは苦笑を漏らした。

「自分は、此処が一番落ち着きます。」

彼は見慣れた正門を見上げる。

「そう言わんと、たまには仕事から離れたらどうだね?」

「せっかくのお言葉ですが、自分には友人もいなければ趣味もございません。たまの休日も何をしたら良いのやら…。」

短く整えられた薄茶色の頭髪に触れながら、レオンハルトは再び苦笑する。

「まあ、遊興の限りを尽くすのもどうかとは思うけれどな。何処の誰とは言わんが。」

クラウスは短い溜息を落とした後、レオンハルトに視線を向けた。

「それにしても、お前は根を詰め過ぎだ。後ろ暗い過去があるだろうが、それに囚われてばかりでどうする。」

「ええ…。」

彼は力なく、そう呟いた。

「だったらまず、常にヘルムを被るのを止める事だな。」

レオンハルトは思わず、首元の傷痕を右手で隠した。



クラウスは目尻に皺を寄せ、微かに口角を上げた。

「確かに、お前に対する世間の風当たりは冷たい。しかし、だからそれがどうしたと言うんだ。」

彼は白い歯を見せて笑った。

「お前の『義』は何だ?」









━━君の『義』は何だ?僕に見せてみろ。








レオンハルトは回顧する。

『死神』と呼ばれし少年に命を救われた、自分の過去を。

-164-

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