途端、狭い路地裏に悲鳴が響き渡る。
「コイツ、十字軍の何とかって隊長だ!」
「間違いねえ!逃げろ、敵うワケねえよ!」
「君達みたいな連中が僕の顔を知っているとは感心だな、褒めてやるよ。だが、こいつ呼ばわりされる謂れはない。」
リュユージュがわざと凄むと、気絶している仲間を置き去りにして彼等は全速力で逃走した。
「あー、下らない。」
リュユージュは地面に伏している男を蔑視しながら、帽子を被り直す。
「ところで、君は本当に嘘吐きだな。ルクレツィア。投擲の腕前は百発百中だろ。」
「まあ、何の事でしょう。」
すっかり小刀を元通りに納めたルクレツィアは、にっこりと微笑んだ。
「別にいいけど。」
ルクレツィアはリュユージュの腕に自分の腕を絡ませる。そして二人は共に立ち去った。
目的地に向かう途中、彼は警備に当たっている隊員に声を掛けた。
「向こうにいるなんか訳分からないの、片付けといて。邪魔だから。」
「は…っ?」
隊員はぽかんと口を開ける。
「行けば分かるよ。」
恐らく、何も理解出来ないままで彼はリュユージュに敬礼をした。
リュユージュがルクレツィアを連れて来たのは、警備の為に設置された監視用の高楼の一つだった。
彼は鍵の束を取り出して解錠する。其処に現れた細い螺旋階段を、二人は上った。
「今日はここ、使わないって聞いたから。」
つい先程までのメインストリートの混雑を忘れてしまいそうになる、静かな空間。
階段を上りきると、リュユージュは窓を開けた。監視用なので小さいものだったが、それでも充分に見晴るかす事が出来た。
首都全体を展望出来る眼下の光景に、彼女は言葉を失う。
「まあ…。」
「パレードは間近で見られないけど、あの人込みにずっといるよりマシでしょう?」
王宮の遥か彼方、果てしなく広がる地平線の向こうに沈み行く夕日を二人は並んで見ている。
ルクレツィアはリュユージュに寄り添い、胸を締め付けるかの様な暗紅色の落陽をしっかりと心に焼き付けた。
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