「『緋桜隊』、前へ!」
白馬に跨がった側近の一人が、バレンティナ軍の陣営より現れ出た。
一時は戦意を喪失した彼女だがどうやら今ではそれを取り戻した様で、火砲を的確に配置し砲兵に命令を下す。
それらを初めて目の当たりにした民兵達は、ただ唖然と驚き入り、頭を庇って身を屈める事しか出来ずにいた。
「第一、点火準備!」
横一列にずらりと並べられた迫撃砲が、ルード隊に向けて続々と照準を定める。
「発射!!」
硝煙と共に砲口から一斉に吐き出されたのは、榴散弾だった。
多勢を誇るルード隊と言えども、頭上から無数に降り注ぐ榴散弾による攻撃には陣形を乱され、前進は困難を極めた。
それはまるで、春の陽の中に舞い散る桜の緋い花弁の様だった。
「くっ…!」
リュユージュの目前で、自軍の人馬が負傷した。
「第二、点火準備!」
予想以上に敏捷なバレンティナ軍の迫撃砲の攻撃に対し、ルード隊は成す術が無かった。
「散開ーっ!!一時散開ーっ!!」
リュユージュの苦渋の決断を、旗手は迅速に総員に伝令する。
「小賢しい…!!たかだか牽制で僕を止められると思うなよ…!!」
彼は歯を食い縛って屈辱に耐えた。
「『紅蓮隊』、前へ!」
ルード隊への牽制の為の砲撃が済むと、側近は次いで異なる砲兵と火砲を配置した。
それは『緋桜隊』の迫撃砲をも超える巨大さで、更なる威力を持つであろう事が容易に想像出来る。
「点火準備!」
砲身の方角から推測するに、バース河港への退路を確保するべくルード隊の包囲突破を目的としている様子だ。
リュユージュはそれを見抜くと、司令を下した。
「退却ーっ!!第十六隊、退却ーっ!!」
旗手は刹那の躊躇の後、命令を伝達した。
「発射!!」
腹の底を抉られる様な爆発音と共に放たれた焼夷弾は着弾と同時に、地震さながらに堅固な大地をも揺るがした。
強大な衝撃波と炎熱風を巻き起こしたそれは、あたかも戦場に咲く大輪の蓮華に見えた。
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