手持ち無沙汰になったアンジェリカは壁にもたれ、リュユージュに預かった耳飾りを取り出して眺めていた。

その華奢な細工は、まるで安易に触れられる事を拒否しているかの様だった。

そしてそれらに囲まれて堂々と輝いているのは、生命十字と呼ばれる頂部分が楕円形の輪になった十字架だ。



「彼が『白の死神』なのね。思っていたよりも子供で、驚いたわ。」

この発言に、警備兵達は度肝を抜かれた。

兵役を終えたという事は、アンジェリカは成年に達している。確かに年齢だけを言うのならば彼女の方が上だ。

しかし『死神』の異称が、リュユージュの性分をとても分かりやすく示してくれている。

口が避けても警備兵達には吐けない台詞だろう。



「ところで、何故『死神』と呼ばれているの?」

「必ず敵を皆殺しにするからだ。リュユージュ様の甲冑姿を見て、生き残った者はいないとまで言われている。」

もう一人の警備兵がその続きを語る。

「まあ尤も、あの方の主な仕事は暴動の鎮圧や国賊の討伐だからな。何にせよ、フェンヴェルグ聖王のお気に入りさ。」

アンジェリカは納得した様に頷いた。



その時、扉が叩かれた。

「レオンハルトです、失礼します。」

近くに居た方の警備兵が慌てて扉を開ける。

「アンジェリカ殿の様子を見て来る様にと、リュユージュ隊長に仰せ付かって参りました。」

「別に逃げる気なんかないわよ。それに、私は世話が必要な子供とも違うわ。」

アンジェリカはリュユージュに対して苛立ちを覚え、レオンハルトをきつく睨んだ。平たく言えばただの八つ当たりだ。

睨まれてもレオンハルトは全く気にならないのか、鎧と同色の兜の所為で表情こそ伺えないものの穏やかな口調のままで言った。

「自分は無骨な軍人でして、女性に気が利いた振る舞いなど出来ませんが。」

そして、冷たい飲み物を手渡した。

「まあ。ありが、…とう。」

微かに言い淀んだ後、アンジェリカは態度を一変させるとレオンハルトに向かって微笑んだ。



アンジェリカの手には、飲み物の他にメモが握られていた。

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