強盗は短剣を振り翳し、一直線にベッドへと向かった。

「きゃあ…ッ!」

勢い良く開けられた扉に驚いて目を覚ましたアンジェリカの悲鳴が、静寂を引き裂く。

ギルバートは腰を低くして強盗の足元に飛び込んで倒し、組み付いた。

その拍子に短剣は強盗の手から離れた。

「うおぉおーッ!!」

ギルバートは滅茶苦茶に叫びながら、強盗の髪を引っ付かんで床に打ち付ける。

この勝負は、腕力の強い彼に軍配が上がった。

その時。

玄関で抑え付けられていた一人が小刀を手に、アンジェリカを人質にでもしようとしたのか、彼女を目掛けて突進して来た。

当人は恐怖に竦み、全く動けない。

「止めろおぉおーッ!!」

ギルバートはアンジェリカに覆い被さり、彼女を庇って代わりにその肩に傷を負った。

異常に気付いた伯爵が警報装置を作動させると、二人は窓を割って逃げ去った。

彼が最初に殴打した強盗は気絶していた為に難なく捕縛し、伯爵が当局に身柄を引き渡した。

ギルバートの肩の傷は思いの外浅く、数週間もすると完全に癒えた。



何時しか、アンジェリカは熱を帯びた瞳でギルバートの姿を追っていた。

彼も気付いてはいたが、まさか応える訳にはいかない。

「い、いけません!俺は伯爵様に恩義があります。大義に背く訳にはいきません。」

たまたま、眠りが深かったのか。ギルバートはアンジェリカの気配に気が付かず、どこか息苦しくて目が覚めた時には彼女が自分の腹に跨がっていた。

「お母様は言ったわ。女は本能的に強い遺伝子に惹かれる、って。」

「え、いや、お、俺は…。お嬢様、あ…、ダ、ダメです!」

「名前で呼んで?」

ゆっくりとその顔を近付ける。

「ね?ギルバート。」

アンジェリカのストロベリーブロンドの髪が、ギルバートの頬に掛かった。

そして、肩口の傷跡にそっと口付けを落とした。

「…っ、いけません!!」

抗い難い誘惑に打ち勝つべく、ギルバートは強く目を瞑りアンジェリカを撥ね付けた。

「お嬢様はもうすぐ、旦那様をお迎えになられるんですよ!?」

「そうよ!私…っ、他の男になんか抱かれたくない!」

細くて白い腕に力を込め、アンジェリカは激しくギルバートを求めた。






この時既に、彼には分かっていた。



自分達の行く末は、破滅だと。

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