「最近、おとなしいのね?」

ともすれば嫌味とも取れるベネディクトのこの言葉にも、ドラクールは反応を示さなかった。

と言うよりも、事実なのだから反応のしようがない。

彼はあれから一度だけ、雨の夜に街に繰り出していた。だが何の事件も問題もなく、小銭と引き換えに強い酒を手に入れただけだった。



「貴方はあの日、━━…。」

暫く待ったが言葉の続きはなく、不審に思ったドラクールは毛布の隙間から顔を覗かせた。

「…。何でもないわ。」

ベネディクトは紺碧の目を伏せ、金色の髪を揺らして首を横に振った。

言い掛けて黙られるとは、誰しも良い気分はしないだろう。

しかし恐らくは自身に不利な発言をされるだろうと予想していたドラクールは、無言で毛布を被り直した。









石造の階段を下る足音が響き渡った。

其処は窓一つなく非常に光が乏しい。

それにも拘わらず、ベネディクトは歩調を緩める事もなく一定の速度で足を進めた。

稀に例外はあれども、日に三度もの往復を重ねている彼女には足元を照らす光など不必要だった。

重々しい金属製の扉を両手で押し開け、塔の外に出る。

そして幾重にも厳重に施錠した。

━━いくら錠に鍵を掛けた所で無駄なのに。






自由を欲する心も

自身を求める魂も



抑制する事など、決して誰にも出来やしない。







ベネディクトは最後の錠を下ろした。年月と共に錆び付いたそれは、滑りが悪かった。

━━もう、十二年。劣化するのも当然ね。

彼女は冷たい扉に掌を当て、上を仰ぎ見た。

━━貴方には全てが見えているのよね?森羅万象の、未来が…。

悲愴と言う色を映した紺碧の瞳を、彼女は再び伏せた。

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