…カラン、カラン。


「聞いてくれよ〜アントニオ。楓がさぁ…バニーちゃんバニーちゃんて言ってさぁ、俺の事なんてまるで興味無いみたいで…」


「ハイハイ…いつもの事じゃねーか。」





ヴィンテージな雰囲気が漂う店内、先にカウンターに座っていたアントニオの隣に虎徹が座った。


「マスター、焼酎ロックで。」


溜め息混じりで虎徹は頼んだ。
俺も頑張ってるのに…ぅぐ。

はぁ、良い年の中年が泣くなよ;;
…まぁ、俺も中年だけどよ。





虎徹は出されたグラスを一気に飲み干した。


「そんな一気に飲むと酔いが回るぞ…虎徹。」

「…くぅ〜これが呑まずにいられるかっての、お前も呑めよ!!」


「…呑んでるよ。そんな事よりその問題のバニーちゃんはどうなんだ?」


「お前までバニーの心配か?…いやまてよ、お前アレか?もしかしてお前…そっちの気が?」

―ガシャンッッ!!!

「ブハァっ;;おまっ何言ってんだ、んなわけねぇーだろ!!!ゲホッ…。」 


「…いや、冗談だよ;;。」


 そんな他愛のない中年同士の会話が繰り広げられる中、それとは対象的に心地好いピアノの音が店内に響き渡る。

演奏している彼女もまた違った悩みを持っていた。






初めて会った時はあんなやつって思ってたけど…あ〜もう、なんなのあの二人。すっかり常連じゃない;;あたしの心境も知らないで…。

演奏が終わり、ステージから颯爽とカリーナは降りた。



悩みの根元である男といえば…相変わらずの笑顔と拍手を此方に向けている。

その表情を見る度胸が高鳴る。
ああ〜もうそんな顔で見ないで;;



「…もう、なんなのよ;;」


小声で言うと、カリーナはプイッと男から目線を反らした。


「あーあ、嫌われたな。ま、いつもの事だけど。」


「…なんだよ、俺が何か嫌われる事でもしたか?」



カウンターに肘をついては不満げな表情で彼女の後ろ姿を見送った。 








「じゃ、そろそろ俺は帰るが、お前はどうする?」



時計を見ると時刻は深夜一時過ぎ。なんだってまぁ、話し込んだみたいだ。



「…あと一杯呑んだら帰るわ。」

「そうか、分かった。気を付けて帰れよ。」

「おう。付き合ってくれてありがとな、頑張ってポイント稼げよ!」

「うるせーよ!」



バシっと虎徹の肩を叩き、アントニオは店から出た。






見た目はあんなんだが、俺にとっては良い相棒。学生の頃からのつき合いもあるせいか、本音もすんなり言える。

しみじみ思いつつグラス内の焼酎を静かに呑み干した。










シュテルンビルトの夜景はとても綺麗で有名な街。こんな夜中でも大量に設置されている街灯のお陰で道に迷うことはまずないだろう。



酔い醒ましに、と虎徹は家路まで歩くことにした。















【…居たぞ、散々手こずらせやがって。大人しくしてれば良いものを…】

複数の装甲車が一人の少年を取り囲んだ。車内から特殊な銃を持った男達が複数、銃口をこちらに向けている。



…ここで捕まるわけにはいかない。だけど、こんな足じゃ到底逃げ切れそうにない。

長い時間走り続けた【その足】は血で赤く染まりいつの間にか痛みすら感じなくなっていた。…意識が朦朧とする中、再びアノ時の目眩が襲ってきた…


【…身体を寄越せ、俺が何とかしてやる…】


―少年は能力を発動した。少年の身体は青く光る、そして男達に向けて口を開き【ナニカ】を発した。



《キィィィィィーーーー!!!!》




「ぐぁっ…なんだ…身体が熱い、ぎゃあ…。」

外に出ていた男達はその場で倒れた。微動だにしない姿を見て、装甲車に残っていた者達は恐怖からか…一向に外に出てくる気配が無い。





【…どうした?まだ残ってるんだろ?出てこいよ。ハハッッだったら此方から攻撃してやろうか?】


―ニタァっと装甲車に向けて笑い掛けた。



悲鳴と共に少年を取り囲んでいた装甲車は逃げるように走り去っていった。












「これも僕が…。」


先程までこちらに銃口を向けていた男達が倒れている。

【もう一人の僕】が囁きかけた、まではうっすらと憶えている。…けどそれ以降は思い出せなかった。 













 


「フンッフフーンフンッフン…♪」

軽快な鼻歌を歌いながら虎徹は歩いていた。



…ブォン、ブォン…

複数台の重厚な大型車がその横を通り過ぎる。華やかな公共の道路内で、黒煙を出しながら走る【それ】は…虎徹に悪い予感を感じさせた。




事件が起これば腕に付けているPDAが鳴り即座に連絡が入る、それらは通り過ぎたがPDAが光る気配は全く無い。


気のせいか…そう思い、再び家路に足を進めようとした時、その予感は当たってしまった。





悲痛な声が上がった。


『…ぎゃあぁぁぁッッ!!』






「…うわ、マジかよ。」



虎徹の表情は強張る。

…ああ、昔からそうだ。
俺の感はよく当たる。悪い方が特にな。


声が聞こえた方向に虎徹は一直線に走った。 









 

なんだよ…これ。




その光景に虎徹は目を疑う。

十代半ばの少年一人、その先には倒れて微動だにしない大人が数人。


少年の身体は青く光っている…あれは能力者特有の発光だ。





「…NEXT。」




背後から聞こえた声に気付き少年は振り向く。

強い発光は振り向き様に消えていた。






「…君が、やったのか?」


「ち…違う、僕は…やってない…。」





その声は酷く掠れていた。

バニーならこの光景を見て、即座に少年が犯人だと断言するだろう。












    ―貴方の考えは甘い―












ふと、あの時に投げ掛けられた言葉を思い出した。






そんなの、言われなくても分かっている。だけど…。

例え犯罪者だろうと、必死に助けを求めてるなら俺は手を差し伸べる。そこにはきっと犯行に手を染めなければならないような理由があったに違いない。少年の掠れた声と、傷だらけの姿を見て…そう思った。何かに恐れているのか小刻みに身体は震えている。




「…大丈夫だから…」


宥めるように少年に囁きかけながら一歩また一歩、虎徹は近づいた。





「…こ、来ないで…」


少年は足を引きづっては苦痛に顔を歪めた。しかし、距離を縮めまいとその行為をやめようとはしない。




少年の血が路面を濡らす。





…捕まったらまたあの施設に入れられる。あの非現実的な日常が繰り返される。この日を夢見て何日も苦痛に堪えてきたんだ。やっとここまで来たんだ。こんな人間なんかに捕まってたまるか。



唇を強く噛み締める。




残りの力を振り絞り少年は下がろうとしたが身体は限界を等に越していたのだろう。
立っているのがやっとだった。


『動くな。』



声の先を見ると、一人の男がこちらに銃口を向けていた。

白衣を着た男…。



『さぁ、その子供をこちらに渡してもらおうか。』







銃口は虎徹に向けられていた。






『…大人しくしてその子供を差し出せば、あんたには一切危害を加えない。』


「そんな物騒な物向けといてよく言うよ。…ふざけた顔して。」


―カチャ―


『…あんた、自分の立場分かってる?』



どうやら無意識に言った言葉のせいで相手を怒らせてしまったようだ。やれやれといった表情で虎徹は口をあける。



「…それ、俺のセリフ。」



その最中、虎徹から青い光が発せられた。





『…で?』


「あり?オイッお前、少しは驚けよ!!」


『…能力を持った子供を追ってきた私が免疫無いわけないだろう。お前、見た目通り馬鹿だな。』

「だぁ〜どいつもこいつも馬鹿にしやがって…見てろよギャフンって言わせてやる。少年、そこから動くなよ、あんな奴すぐに追っ払ってやるからなッッ!!」


「…おじさん…駄目だよ;;あの男とまともに戦っちゃ…ダメ…ゲホッ。」

「まともにって…おまっ、それ以上喋るな;;;」



バランスを崩し少年はその場で倒れる…が、固い路面の衝撃は無く、目の前の男によってそれらは免れた。



「…フゥ。そんな体で無理しすぎだ。」




この状況どうしようか、まともに戦っちゃダメって…ありゃどういう意味なんだ。さっぱり分からねぇ。





…ギュッ。


「…さ…ん…げて…。」

「だから喋るなって;;…ん?げて?」


意味深な言葉に首を傾げる。掠れ声でよく聞こえない。





『…で、どうするんだ?』


男の表情は変わらない。余裕があるのだろう。




添えられた手がビクリと動く。



「…しゃーねぇ、よっと…確り掴まってろよ。」

「…うわっ。」



抱き抱えるように少年を持ち上げる。




『…そうか。なら仕方ない。』  

…男は銃を撃ち放った。



 ―ヒュンッ―


その瞬間、凄まじい速さで虎徹は飛び上がる。





「…こういう時は逃げるが勝ちってな。」


そう言うと、付近の建物に跳び移りあっという間に見えなくなってしまった。











『…チッ、パワー系NEXTかよ。』


彼等が行った方向を睨み付けるように見ながら男はギリッと歯を噛み締めた。







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