【…いつまでこうしてるつもりだ、ライ?】
―誰?
【…誰か。そうだなぁ〜お前の中のお前?っていうか…あーめんどくせぇ。】
―…もう一人の僕って事?
【…そゆこと、折角だから少しだけ手伝ってやるよ…】
―…手伝うって…どう…い…う…
…脳内に響く声、そして微かな笑い声が聞こえたと同時に急な目眩に襲われた。
【ザ…ザ…ザザ、…、被験者が一名脱走しました…】
『なんだと、看守はどうした!!…やられただと。厳重な態勢でやれとあれほど言った筈だ!早く捕まえろ!!』
―
まだ実験途中だというのに、まだ解明されてない能力…わざわざブロンズステージまで出向いて探し求めたNEXTだっていうのに…。
白を基調とした室内、デスクには様々な被験者の書類が乱雑に置かれている。白衣を着た男は一枚の書類を手にし、苛立ちを隠せない様子で部屋を後にした。
―何年振りだろうか、こんな澄んだ空気を吸い込んだのは。密閉された室内と人工的な照明内での生活、食事睡眠など決まって与えられてきたが…あれは自由とは程遠い。
その合間に様々な実験が行われ、時には激しい痛みを伴う実験も少なくはなかった。
…同じように監禁された者は僕以外に特殊能力を持つ男女十数名、その中には幼い少年少女も…。
…脳裏に皆の顔が浮かんだ。
出来ることなら皆を助けたいけど今の僕じゃ逃げる事で精一杯…。闇雲に走ってきたせいで腕や足には無数の擦り傷や切傷、泥だらけの手で少年は血を拭う。
「必ず…助けるから、あんな施設ぶっ壊してやる…必ず…必ず…」
―
酷い頭痛で目が覚め…気付けば、看守は倒れていた。
【お前の中のお前…】
あれは…もう一人の僕がやったの?
「ぁ…くっ…。」
また頭痛が…。
…取り敢えず落ち着いてから考えよう、今は逃げることに専念しないと。
少年は固く拳を作り、再び走り出した。