これの続き










引っ越した先はとてもいい場所だった。冬には雪が積もって大変みたいだけど、自然に囲まれたとても静かな場所。
お父さんの転勤場所が東京からそんな場所になったと聞いた時は降格なのかとも思ったが、なんだかそうでもないらしい。
転校が面倒だと思った私はそれとなく一人暮らしの話もしたが、一人暮らしはまだ早いと言われ、やっぱり、という思いと共に家族揃ってお父さんにくっついてきた。

携帯番号もアドレスも変えた。住所も違う。彼との繋がりは、もうない。
少し寂しく感じながらも、ダンボールがひしめく部屋に先ほど作ったばかりの棚の上に写真を置く。キセキのみんなと撮った写真だ。その中で黄色く輝く彼がとてもいい笑顔で写っている。

少しじゃない。とても寂しい。知り合いが誰もいないという理由もあるが、黄瀬くんともう会えないのか、という思いが強い。そう考えた瞬間、自嘲気味に笑みが浮かんだ。何を言っているんだ。自分が何も伝えず逃げてきたのに。

なんだか片付けをするのも疲れた。今日はこれでいいかな、と一息つく。少し散歩に行こう。
階段を降りてお母さんに一言告げて外に出た。




外はまだ昼間だからか人通りはまばらだ。その中をカツンカツンと少しだけ高いヒールを鳴らして歩く。そういえばこっちに来て探検という探検をしていない。ちょっと近くを歩いて帰ろうかな。
さわさわと風が草木をなびかせて行く。気持ちいい風だ。癒される。



「(…黄瀬くん、元気かな)」



頭に浮かぶのはやはり彼。思えば初恋だったなぁと、もう遠い話のように思えた。
恋人ではなかった。でもお互いにただの友達でもなかった。そんな黄瀬くんとの関係を始め、様々な人間関係に恵まれた帝光時代。楽しかった、本当に。あんな人間関係がこれから作れるかな。
はぁ、とため息一つ。刹那。










「結衣っち。」





もう聞くことのないと思っていた声が聞こえた。振り向いた先には、息が切れている見慣れた黄色がいた。



「……黄瀬くん?」
「…結衣っち。」



どうしてここに、なんでわかったの、こんな遠いところまでなんできたの、
たくさんの疑問が浮かんでは消えて、気づいた時には彼に両肩を掴まれていた。


「……っ、やっと、会えた…」
「き、黄瀬くん?」
「……ばかっ!」



結衣っちのばか!と涙を溜めた両目が私を捉える。両肩を掴む力は強い。はぁはぁと息を整える彼が、なんだか他人事だが可愛く思えた。言ったら絶対怒られるけれども。



「なんで…なんで何も言ってくれなかったんスか!」
「…ご、ごめ」
「俺、めちゃくちゃ心配したんスよ!?赤司っちから急に転校したって聞いて、でもメールも電話も繋がらなくて!やっと赤司っちから教えてもらって!そんで、そんで…!」



そこまで言って、はぁーと長いため息を吐いて俯いてしまった黄瀬くん。



「もう…何なんスか…」
「……ごめん」
「俺、そんなに信用なかった?」



仲良かったって思ってたのは俺だけ?、と細い声で言うから私も泣けてきてしまった。
そうか。結果的に私は彼を傷つけたんだ。むしろ言わなかったことでもっと傷つけた。
ごめん、ごめんね、と涙声で言うと、ぎゅっと包み込まれて背中をさすってくれた。あったかい。



「もういいッスよ」
「…うっ……」
「また会えてよかったッス」
「ううー…」
「もう泣かないで」



彼はいつも優しい。こんなことをした私にも優しい。その優しさにいつも私は甘えてしまう。ほら今だって。彼が許してくれるから私はまた甘える。



「…もう、黙っていなくならないで」
「うん…」
「連絡先もちゃんと教えて」
「…うん…」
「……好き」
「…え?」



ぎゅっと更に抱きしめられる。今、何て…
黄瀬くんの腕の中で上を見上げると、顔を赤くしながら切ない表情を浮かべる彼と出会った。その表情を見て、キュンと心が鳴った。



「好きッス、結衣っち」
「…嘘」
「嘘じゃないッス。…やっぱり気づいてなかったんスね……」



あんなにアプローチしてたのに、とぼやく黄瀬くん。そして、



「俺と、」

























「もうあれから8年になるんですねー黄瀬くん」
「なんでいきなりその呼び方してるんスか」
「いや、なんだか懐かしくなって」
「明日から結衣も同じように呼ばれるんスよ」
「…その文句、恥ずかしいよ」
「う、うるさいッス!……それにしても、あのときは本当にびっくりしたんスよ」
「う…もうその話はいいよー…」
「良くないッスよ!今度またあんなことしても、もう知らないッスからね!」
「そう言って、また捜しにきてくれるんでしょ?」
「……調子に乗っていられるのも今の内ッスよ!」
「わわ!ちょっと!乗っからないでよ!」
「もう絶対逃がさないッスからね!」



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