「もう二度と俺に構うな」
冷たい声で、表情で惣一に睥睨され、ドンッと胸を押された時、現実の事だと黒琥には理解できなかった。
胸を押されて後ろに一歩たたらを踏む。

(ー・・・拒絶された。)
ただその事実が黒琥の胸を焼いた。押された胸が痛くてたまらない。

◆◆◆
恋をしていたー・・・どうしようもない恋だった。
漆黒の髪に瞳。惣一を形成する全ての要素が愛おしくて、とうとくて。

『鈍いっ…テメェとオレは父親も違うって言ってんだよっ』

喪う前、惣一が死ぬ前に過ごした夜。泣きじゃくりながら俺を抱きしめる惣一はまるで、血の繋がらない「弟」を離すまいとしているようにも思えた…血が繋がらないなら、自分たちとはなんなのか酷く脆くて、だからかもしれない俺は惣一にそっと触れるだけの口付けを贈った。

儚い熱を交わして・・・ゆっくり離れる。

するとそっと惣一が、壊れ物に触れるように俺の頬をその大きな手で撫でるから俺も泣いていることに気付いた。
互いに涙を零しながら真剣な表情で見詰めあうと、目の前の惣一の鮮烈な漆黒の瞳が綺麗で…黒曜石を切り取ったかのようだと想った。

怜悧な男らしい容姿。大柄で、懐が広くて、艶やかな闇を纏う様に極道の若頭に相応しい男。

その大きな腕の中に閉じ込められる。それは俺に安心を与えてくれた腕だった。
だからゆっくりと惣一の顔が近付いて再び口付けられた時も抵抗する気など起きなかった。
惣一は俺のもので、俺は惣一のものだと想えた夜。

そして運命の日の別れは突然すぎて身構えることすらできなかった。

『なぁ黒琥、聞け。』
宥められながら優しく別れの言葉を電話ごしに聞くしか出来なかった。

『…愛してるぞ…オマエはオレの弟で、想い人で、最高の片割れだ。』
玲瓏な声で囁かれた言葉に…胸が痛くなるぐらい切なくなったんだ。

愛していた。

アンタだけだった。

くるしい

いとしい

いとおしい

『惣一』

一度は喪ったから愛おしくて、亡くしたくなくて、失くしたくなくて。

嗚呼そうだ俺は惣一を愛している。

◆◆◆
パタタッと雫が廊下に落ちて、濡れる。
あれっと不思議そうに自分の頬に触れた黒琥はそこで自分が泣いていることに気付いた。

「あれ、なんで、おれ」

瞬きの間に傷ついたのに、気付かないかのように不思議そうに戸惑う黒琥の涙から溢れて止まらない。
こぼれて、あふれて止まらない。
だから惣一は自分の決心が揺らぎそうになった。誰が大切だと思った人間を傷つけたいと思うのか。
本当は抱きしめたくてたまらなくなる、だから・・・
「不愉快なんだよ」
心とは真逆の言葉を言ってみせた。
もっともっと遠ざけて、いっそもう視界に入らないぐらいに遠ざけて諦めてしまえばいい・・・諦めることは幼い時から得意だ。

「そういち」

けれど寄る辺ない幼子のような声で零れる涙を拭うことすらできず黒琥が惣一を呼ぶから、胸が痛い。
けれど惣一は無言で不愉快そうにギュッと眉を寄せると、黒琥の目の前で自分の部屋の襖を閉じ叫んだ。

「良いからっ!!!さっさと消えろ!!!!」

ビクリッと黒琥の肩が震える。
嗚呼、俺はどこで間違ったんだろう。
この運命はどこで間違ったんだろう。

そして黒琥は耐え切れずにそこから走り去った。







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