海〜二人〜
その時だった、月に重なるように光が溢れた。
「っ」
翡翠は息を飲む。
これはまるで・・・
清廉なそれは神気の光・・・その中で、ゆっくりと形創られるのは、焦がれた人。
「真貴っ・・・」
彼女は海の中に居る翡翠を見つけると、少し哀しそうに、切なげに・・・嬉しそうに微笑んだ。
源平の時代に飛ぼうとしたのに、叶わなかった。
それは真貴が翡翠に抱かれ、純潔でなくなり『神子』として時空を飛ぶ神力が弱くなったから。
翡翠はいつも私を捕えて離さないのだ。
残酷で美しい人。
「真貴っ」
泣きそうな顔で、手を伸ばされる。
貴方の必死な顔が愛おしいなんて・・・
手を伸ばした。
互いのたった一人に。
「翡翠っ」
光が集束して、翡翠の腕の中に『神子』が降り立った。
バシャアンッと立つ水飛沫。
海の中で二人濡れるのも構わずに、抱き締めあう。
「貴方に、伝えてないことがあったっ」
真貴は涙が溢れて止まらなくなった、
翡翠は真剣な光彩の瞳で見詰めてくる。
「私はーー」
ちゃんと貴方のことを・・・
その言葉は翡翠の口付けによって飲み込まれた。
その儚い熱に胸が一杯になりながら。
翡翠は真貴を見詰め、そして酷く優しく微笑む。
「君はいつも突然すぎるよ・・・私の白菊。」
ゆっくりと少しずつ時間をかけて歩いて行きたいんだ。
時間をくれないかい。
私に。
「愛していた、愛してる」
本当は初めて会った時から、気付いていた。
たったこの言葉を素直に言えなかった。
そんな翡翠に真貴はふわりっと微笑んだ。
海神の比翼・完結
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