蛯原さんの男らしいコロンの香りがする広い胸に、強く抱きしめられた。

「真貴っ・・・」

どうしてこんな風に私の名前を呼ぶんだろう、胸が痛い。たったこれだけなのに切なくて何故か私は縋りつくように抱き締めていた。

こんなの許されない。
私は康一さんに抱かれたのに。
彼の妻なのに、こんなに蛯原さんが愛おしすぎる。

ゆっくりと蛯原さんの端正な顔が下りてきてチュウッと啄ばむように口付けてくれた。

会社で何をしているのと警鐘が鳴るのに、応えてしまう。
舌で唇をなぞられれば、そっと開けてそのまま絡めていた。
クチュッと淫猥な音がする。

二人で互いの熱に煽られて、どれくらいの時間が経ったのか、多分そんなには経っていないと思うけれど。
蛯原さんは、ゆっくりと腕を緩めると私の腰に手をあてて顔を覗きこんできた。

「本宮、今夜一緒に食事に行かないか?」

真剣に囁いてくる蛯原さんに返せる言葉は一つしか無い。

「はい」

それが私と蛯原さんの、本当の意味での不倫の始まりだった。




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