ありがとう / 君にお礼を言いたかったこと

バシッという衝撃で私は地面に倒れ伏した。

「今後は無礼を働くなよ」と伊達兵に言われ、罰だと殴られた、悔しくて涙が溢れる。
でも彼等は悪くない、ただ仕事をしているだけだ。
ただ世の無常が哀しかった。

大名行列と別れて、トボトボと夕焼けが迫る城下町を歩く、冷え込んできて体が凍える。

両手を顔まで持ってきてハァッと息を吹きかける、心持あったかかった。

帰宅の足を急ぐ男性達の働いて充実したような顔に、漂ってくる夕飯の匂いに自分は独りなんだと強く意識する。

帰る場所は無くて。
今日は泊まるとこすらない。
夜は危ないし、私は大通りで独り途方にくれた。


そわそわと落ち着きの無い主・幸村に佐助は内心、辟易していた。

「佐助っ政宗殿が参られるっ」

いやーそんなキラッキラッした目で見られても俺様困っちゃうんだけど…

「はいはいー知ってますよー」

すると佐助の返事を待たずに幸村は襖をバタンッと開け放ち、

「おおおおおおおっ親方様っ!!!」

と外に向かって吼えた。
うわー会話の流れが全然わかんないっ旦那って元気だねぇと佐助は遠い目で幸村を見詰める。
ちなみに此処に幸村が親方様と慕う武田信玄は、いない。

「漲るぅああああ!!!」

うん全然分かんないや、多分、独眼竜と手合わせしたいんだろうけど…佐助は少しため息を零す。

「旦那、俺様ちょっと独眼竜の旦那のとこいって今、どこらへんか見てくるから」

「おおおおっ佐助っ頼むっ」

「はいはい」

そして佐助はその場から消え失せた。


佐助は城から飛び出して、風となって駆け抜ける。
いやぁそれにしても竜の旦那が天下かぁ。
確かにウチの親方様と上杉の軍神が力貸したから、当然ちゃあ当然だけど…

と、そこまで考えたところで佐助は木の上から少しばかり遠くに見える大名行列を見た。

「もうすぐだね」

だが鋭敏な佐助の忍びとしての感性が行列の端で揉めている者達がいることを告げた。

「あれは?伊達の兵と・・・・・えっ!?」

思わず自分の目が悪くなったのかとゴシゴシと擦ってしまう。
そして素早く影となって、近くの木へと身を滑り込ませて再度見てみれば・・・間違いない見覚えのある人物が伊達の兵に殴られていた。
漆黒の髪に凛とした瞳の綺麗な人。

仮にも女の人に手を上げるって伊達軍オイオイ、俺様怒っちゃうよ?

でも・・・

「どういうことだ?」

そこで佐助は少し彼女の後をつけることにした。


俺様が彼女に会った話を少し話そうと思う。
時間にしたら数年前のことで、もう大分、時間が経ったなぁなんて思ったり。

真田の旦那と竜の旦那は好敵手だったから、俺様も引っ張り出されて、よく伊達と戦った。
しかも右目の旦那と同じ程度の力量を持ってる将はウチには俺様しかいなくって…俺様は必然的に対竜の右目だった。

やんなるよねー

しかも何ていうか右目の旦那は融通が利かないから…結果として同盟相手なのに何故か真剣勝負になりまして。
俺様は怪我したり疲れたり色々大変だったんです。

しかも伊達軍へ泊まる事になり、いくら同盟相手と言ってもねぇ忍として主を守り世話する為に真田の旦那が気を抜いてても俺は気を抜けない訳で張り詰めてた。


そんな中、真貴に会ったんだ。





そこまで思い出したところで。
俺様は今、目の前に居る真貴の目の前に立ち塞がった。

真貴からしたら突然現れた俺様に驚いて体が退く、それを俺様はギュッて抱き締めた。

「こんなとこで何してんの?真貴」

「えっ?」

「俺様みたいな男に攫われちゃうよ?」

抱き締めていた腕を解いて、顔を覗きこんだ。
真貴の驚いたような大きな漆黒の瞳に俺様が映る、それがたまんなくて、つい笑ってた。

君が此処に居るって何て素敵なんだろうね。

ふわりっと脇に両手を差し込む。

「ほらっ」

「あっきゃああっ」

ふわりっと上へ持ち上げて、真貴をそのまま降ろすようにして、またぎゅうっと抱き締めた。

あぁ君のやさしい香りだ。






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