真実の想い

そして・・・主を探して妖気を辿ってきた牛鬼や雪女達は清水寺の舞台の上に立ち竦んでいる鯉伴の元に跪き、
先程、知らされた驚愕の事実を叫んだ。

「鯉伴様!!常世殿は毒に犯されていたそうです!!」

それが何を意味するのか、一瞬、鯉伴は分からなかった・・・訝しげに先を促す。

「どういうことだ」

その主に牛鬼は言い澱む気配をするものの、報告する。

「龍族の持つ虜の毒です、近従に・・・裏切られたのだと・・・」

そして牛鬼は捕虜とした白亜から聞き出した龍の毒について鯉伴に言う・・・
虜の毒は麻痺毒と媚薬・・・常習性を持ち毒を受けたものの精神と肉体を蝕む・・・
そして・・・白亜と黒影が、どう常世を毒に堕としたのかという下りになると・・・
場が凍ってゆくのをその場の皆が感じていた・・・

湧き上がる妖気と殺気・・・それは鯉伴からのもので・・・
その金色の瞳は今にも二人を切り刻みそうなほどであった・・・
だがそれをしたら真実が闇に消えるので、鯉伴は何とか、刀の柄をギリッギリッと握りしめることで耐える。

殺してやりたい。
今すぐこいつ等を。

だが一番情けないのは俺だ。

真実を知らなかった・・・知ろうともしなかった事実が突きつけられる・・・
全てに合点がいった。

あの出雲の百鬼夜行の虐殺も。
抗争中に近従に馴れ馴れしく口付けを許したのも。
常世らしくない言動も・・・全て。

この手から大切な者が滑り落ちてゆくような感覚・・・

・・・お前が俺のいない所で、そんな酷い目に、あっていたなんて嘘だ。
笑いながら分かれた数日前に・・・
この数日にお前にそんな酷いことが降りかかったなんて嘘だ。

俺はその時、江戸でお前と義兄弟になるのだと・・・気分良く過ごしていた・・・その時に・・・

だが明かされた真実に鯉伴は立ち竦む・・・
ふらっと眩暈がするのを・・・刀で支えた。

途端に下を向いた鯉伴の視界に床に広がった血が目に入る・・・
俺が常世を切り裂いた・・・この手で・・・

上段から大振りに振り下ろす刀を避けると想ったのに・・・常世はまともに右肩に受けて・・・

差し出された手に刀を・・・突きつけて・・・

その手を取らなかった・・・
引き寄せて抱きしめて口付けて・・・もう大丈夫だと・・・なぜ俺は言わなかった・・・


「貴様等っ、何故主を裏切るようなことをしたのだ!!」

その衝撃を受けている鯉伴の姿に牛鬼が堪らずに叫ぶが、二人は真剣な表情で一言だけ叫んだ。

「愛しているのだ!!」

真剣に紡がれる言葉に皆が皆、何も言えなくなる・・・二人の気持ちが伝わってきたから。
そして黒影が僅かに躊躇うも、鯉伴に向かって言った。

「俺に抱かれていた時、常世様は・・・貴方の名を呼んでましたよ、ぬらりひょん・・・」

鯉伴はその漆黒の瞳を見開く。

「なにを・・・」

それはどういう事だ。

「虜の毒に抗いながら・・・俺に抱かれてもなお・・・貴方のことを・・・常世様は呼んでいました・・・」

手で口を覆う、鯉伴は自分に吐気がした。

その時・・・どんな想いで俺を呼んだのか・・・
決して届かないと分かっているのに・・・

『鯉伴』

俺を呼ぶ声。

「つっっ!!!」

何故、こんなことになった・・・
想い出す・・・俺に切り裂かれた瞬間、わらった常世・・・

崩れ落ちるしなやかな体を・・・受け止めた時・・・僅かに震えた・・・
全て分かっていたのだ・・・分かって・・・俺に切られに来たのだと・・・

「ああああぁあぁぁっっ」

どうすればいいのだろう・・・
守りたいと願った、心から。

ああほら、こんなにも・・・お前が愛おしい・・・

最後に交わした唇の感覚・・・
今は焼けるように熱い・・・常世の熱・・・

「っ常世っっ!!!」

鯉伴は耐え切れなくて・・・月夜を飛んだ・・・
常世の妖気を感じられる場所に・・・

自分のたった一人のためだけに・・・




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