『始まりの言葉』



「別れよう」

その言葉を聞いて、頭が真っ白になった。

「ジャン、悪いな、もう一緒に居られない」

ルキーノのココアブラウンの髪、それと同じ温かみのある瞳が真剣に俺を映している。
それだけで本気なんだと分かる。
俺の惚れた男の姿。

こういうのは25歳になって、それなりに慣れているつもりだし、別に俺とルキーノは付き合ってた訳じゃない。
監獄と脱走と抗争の特殊な中で、急速に関係深くなった。

そして、体を重ねた・・・

それだけ・・・

たったそれだけのこと・・・

そう思わなきゃいけない。

「あーそっか、良いんじゃないのケ、俺達、付き合ってないし」

あっさりと言わなきゃいけない。
こういうのは追い縋ったら、うんざりする。
別れようと決めてる相手に別れたくないと言ったら、その重さは・・・辛い。
関係をもう続けないと相手に思わせてしまう。

そんな格好悪い男はゴメンだ。
だってお前が・・・ルキーノが俺をピカピカにしてくれたんだから。
お前の目に映る俺はピカピカで居たい。

追い縋って、泣いて、グチャグチャになってルキーノが側にいるなら、そうする。
けどルキーノはそういう男じゃない。

好きだ、今でも好きで惚れてる。堪らない。

けど終わりなんだ。
これで俺の夢は終わり。

それで「じゃ」と言って俺は去りかけた。
けどそんな俺の背にテノールの声がかけられる。


「最後に一回、お前を抱いて良いか?」

その声に泣きそうになった・・・体だけ、か。
男が女と別れる時に思う、ごくごく普通の感情だ。

・・・寂しくて堪らなくて、それでも俺は振り返って笑った。

「ワオ、ワオ、良いんじゃないかしら」

冗談事に紛らしてみても、胸が張り裂けるように痛かった。
ルキーノのココアブラウンの瞳に映る俺の顔は不自然な程の笑顔だった。




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