◎心配性の人 小春side


「ふぁ…今何時…?」


体の向きを変えて、ベッドの横についている時計を見た。


「もう12時かぁ…」


ふー。息をついて天井を見るように体を仰向けにする。確か部屋についたのが10時だから、2時間くらい寝てたのかな。寝る前は酷かった具合も、もうすっかり良くなった。やっぱり寝るのって大切だなぁ。


「あ、心結と景吾にメール送るんだっけ。今ご飯食べてるのかなぁ、迷惑かも…」


でも、とりあえず送んなきゃだよね。2人にメールを送ってから身体を起こし、髪を整えているところで、ドアの開く音がして私は顔を向ける。


「小春、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫だよ」
「…ウン、顔色もいいね!良かった良かった!お2人もどーぞー!」


他にも誰かいるのかな?ドアに向かって心結が叫ぶのを見て、まだあまり働いていない頭で考える。すると少しして、再びドアの開く音がした。


「あれ、景吾と宍戸も来てくれたの?」
「…大丈夫か?」
「うん、もう全然平気だよ!」
「そうか…。午後からはマネできそうか?」
「できるよ、本当にもう大丈夫だから!…それより、今ご飯中じゃなかった?」

「あ、そだよー。小春食べれる?」
「もちろん!午後からのために食べなきゃだしね」
「残しても心結が食うから大丈夫だと」
「うん、今日ハンバーグだから全然OK!…ってちょっと宍戸、何言わせんの!」
「はは、よかったな小春」
「今日ハンバーグなんだ?…ふふ、でも大丈夫、全部食べるから!」


宍戸に対して怒ったように膨れた顔をしていた心結にそう言うと、心結は嬉しそうに笑った。



「それじゃあ、そろそろ食堂に戻るか」
「そうだな。練習は一時半からだって幸村も言ってたし」
「よし、じゃあ小春!鍵は私が掛けるから跡部と先行ってなよ!」
「え?いいよいいよ、4人で行こう?」

「ダーメ。小春まだ食べてないんだもん。私ちょっと持っていくものもあるし、ご飯もほとんど食べ終わってるから小春は先に行って食べてて!」
「…そういうことだから先行くぞ」
「え、あ、でも」
「あたしも後から行くからねー!」


景吾に腕を引かれて強制的に部屋から出される。私に向けてそう言ってくれた心結を見ると、にこにこと笑って手を振っていた。





「なんか心結に悪いことしちゃったな」
「アーン?」


エレベーターから降りて、食堂へ続く廊下を2人で歩く。


「心結達、まだご飯食べ終わってなかったんでしょ?」
「…いいんじゃねーか?あいつも持っていくものあるとか言ってたし」
「まぁ、そうなんだけど…」

「それに、宍戸にすりゃラッキーだっただろうしな」
「…確かにそうかも」
「だろ?何にせよ、あんまり気にする必要はねーよ」
「うん、そだね。ありがとう」





そうして着いた食堂は、ホテルなだけあって綺麗だった。でもそれに何処と無く似合わないジャージを着たみんなを見ると、私は少し笑いがこぼれた。


「アーン?一体どうし…」
「小春さん!」
「あれ、赤也くん?」


私が食堂に入るやいなや、駆け寄ってきてくれたのは赤也くんだった。朝の時は私が具合が悪かったせいで、私からすればほとんど久しぶりに会ったようなものだ。


「はい!体調、大丈夫っすか?」
「うん、もう大丈夫!心配してくれてありがとうね」
「い、いや、そんなことないっすよ!当然のことっす!」


赤也くんは少し焦ったように、首をブンブン振りながら答えた。初めて会ったときよりも背はぐんと伸びたのに、仕草はあんまり変わってない気がする。


「…小春、席はジローの隣の隣で切原の前だからな。それじゃ、俺様は自分の席に行くぜ」
「あっうん!景吾、わざわざ来てくれて本当にありがとね」
「ああ。無理しねえように食べろよ」
「はーい」





「小春さんの席、ここっす」


赤也くんに促されて席へ座る。両隣を見ると、食べかけのままだった。


「小春さんの左が宍戸さん、右の端っこが心結さんですよ」
「あ、そうなんだー?」


納得。…納得。両側がいないのも、心結が言っていた通り、ご飯はもうほとんど残されていなかった。心結は席が近かったから宍戸を誘ったのかなぁ。ううむ。


「小春さん?やっぱり具合悪いんすか?」
「あ、ううん、そんなことないよ!ちょっと考え事してただけ」
「それならいいっすけど…」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ?私、そんな体弱いわけじゃないから!」


私がそう言うと、赤也くんは困ったようにへにゃっと笑ったんだ。




ー切原side


小春さんに体弱くないなんて言われても、正直ピンと来ねーよなぁ。俺よりずっと小さい体してんのに…。


「でも、無理しないでちゃんと言って下さいね?倒れたら大変ですし…」
「赤也くんは心配性だね!わかった、ちゃんと言うよ」


小春さんじゃなかったら俺、こんな心配じゃないっすよ。俺の言葉にくすくすと笑う小春さんを見て、俺はこの言葉を飲み込んだ。

久しぶりに会っても、こんなにもすぐに俺の心を鷲掴みにするなんて、ずるいっす。



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