それは、紅蓮だった。
炎は渦のように広がり、景色を呑み込んでいく。
皮膚が焼け爛れるような熱と唸るような轟音を伴って、視界は紅く染まっていく。
『よくやったね、W』
熱の壁の奥で、少女が炎に包まれるのを見た。
長い髪が、白い肌が、身体じゅうが、灼き焦がされていく。
悲鳴までもが、炎に呑まれるようだった。
『君は僕の望み通りにしてくれた。僕の期待に応えてくれた。
それでね、次の大会で、君とは決勝で当たる神代凌牙なんだけど……』
わけがわからないまま、必死に手を伸ばした。
―――どうして。
―――違う。
―――こんなはずじゃ。
やっとの思いで彼女のもとに辿り着くと、灼熱の身体を抱き寄せた。
どうすればいいか、わからなかった。
『不正行為で失格、に出来ないかな。
妹があんなことになっちゃったんだ、彼も普通の精神状態じゃいられないはずだよね。
そうするように仕向けるんだよ。
例えばデッキを盗み見させるとかして、ね』
倒壊が、始まった。
建物が崩れた。
柱が倒れた。
硝子が割れ、破片が飛び散った。
視界の半分が別の赤で染まった。
腕の中の少女が、小さく呻き声を上げる。
皮膚の灼ける臭いが、鼻の奥を刺す。
『これはね、W。
君にしか出来ないことなんだ。
君以外には頼めない。
やってくれるよね。
信じてるよ、W―――』
負傷した右目を片手で押さえながら、必死に出口を探した。
灼熱の地獄の中から、どうにかして這い上がる術を探した。
けれど、見つからなかった。
逃げ場なんて、最初から何処にもなかった。
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