ゴ、という鈍い衝撃と共に体が真後ろに飛ぶ。全身を強く打った感触があったが、この白一色に包まれた空間では上も下もわからない。顔面を押さえた手は瞬く間に鼻血で真っ赤になった。左手を使いなんとか起き上がると、そこには知った顔が並んでいた。

「さすがアリト。鮮やかな右ストレートですわ」
「だろ?日頃の修行の成果だぜ、腕っぷしには自信があるんだ」
「やはりあれはデュエルの修行じゃなかったのか。しかし思わぬところで役に立ったな、見ろ、奴の体が五メートルは吹っ飛んだぞ」
「少しやりすぎな気もするんだが……」
「んなわけねぇだろ。こんなもんで済むなんて普通じゃ有り得ねえ。俺達にしてきたことを考えりゃな。なぁドルべ」
「あ、ああ……そうだな、ナッシュ」

 六人揃ってゾロゾロと、俺の元に歩いてくる。立ち上がれないままの体が反射的に後ずさった。次は何をされるのか。覚悟を決めきつく目を閉じたが、いつまで経っても次の衝撃は訪れなかった。

「これでチャラな」

 目の前で、先程まで拳を握りしめていたアリトが馬鹿にお似合いの清々しい笑顔を此方に向けている。は、と間抜けな声が出た。アリトの言ってる意味が、俺には理解出来なかった。

「これで俺たちからの仕返しは終わりだ。俺たち全員、お前を許すことにする。こっちでお前に会う前から決めてたんだ。俺がみんなを代表してお前をブン殴って、それでお仕舞いにしようって」

 大丈夫かと、日に焼けたアリトの手が差し出される。わけがわからなかった。許すというのは、忘れるということなのだろうか。俺がこいつらにしてきたことを。馬鹿な。そんなこと、出来るわけがない。
 なんでだよと俺は叫んだ。声に込めた感情は怒りに近かった。まるで今までの生を、死ぬ間際から再度否定されたかのような気持ちになった。
 なんでそんな簡単に許せるんだよ。俺はお前たちの力を奪って、神になろうとしたんだぞ。バリアン世界を守ろうとしたお前らを裏切ったんだぞ。それなのになんで、なんでそれだけで終わらせられるんだよ。なんでそんなことで、終わったことに出来るんだよ。
 許されることが許せなかった。
 俺はお前を利用したのに。お前を騙したのに。お前の誇りを穢したのに。お前を甚振ったのに。俺はお前を、殺したのに。

「ふざけんなよ……!」

 体が小刻みに震える意味を、俺はとうに理解していた。奴らに許され、庇われる屈辱に耐えられなかった。歯がカチカチと音を立てて止まらなかった。頬の筋肉が固まって、自分がどんな顔をしているのかわからない。
 馬鹿にしやがって、チクショウ、ふざけんな、クソが。
 幾ら吐き捨てても、誰も動こうとしなかった。この仕打ちに納得できていないのは俺一人だった。

 ――そんな哀れむような目で、俺を見るなよ。

 鼻からだらしなく血を流して、蹲ったまま惨めな姿のままでいるのは、俺一人だけであった。

* * *

 寝返りを打つと、古びた床がギシギシと音をたてた。硬い布団の所為で背中が痛い。薄目を開けると、閉めきったカーテンの隙間から光の筋が伸びているのが見える。この部屋で目覚めるのは三度目だ。今は何時だろう。時計を見ようとして体を起こすと、見覚えのある白いワイシャツと赤いネクタイに視界を遮られた。うんざりして、顔をしかめる。

「……なんでいるんだよ」
「おはようございます、やっと起きた。学校、遅刻ですよ」

 俺自身と同じ顔をした『真月零』が、何故か制服姿で立っていた。初めて見たときは驚いたものだが今はもう慣れたもので、俺は零を目の前から退かし今度こそ時刻を確認した。まだ八時か。

「ちょっと……また寝ようとしないでください!遅刻ですって!今日こそ行かなくちゃ、三日連続で休みになっちゃいますよ」
「今日は土曜だから学校はねぇよ。わかったらさっさと消えろ」
「ええっ、そんなのないですよ!折角ベクターが起きるの待ってたのに」

 身を乗り出した零が不満を露にしたが知ったことではない。俺は顔を背けて布団を被った。あと三時間くらいは寝ていられるだろう。なんで昨日学校に行かなかったんですかと零が俺の頭を叩いたが、無視を決め込めば諦めて消えることは昨日までの二日間で学習済みだ。目を閉じて、おさまるのをじっと待つ。

 零が俺の前に現れだしたのは、俺がヌメロンコードの力で人に転生してからだった。深い眠りから覚めたとき、真っ先に視界に飛び込んできたのはこの古びたアパートの天井と、鏡に映したみたいにそっくりな俺の顔。

『お久しぶりです』

 その声を聴いて、そいつが鏡に映った像ではないことがすぐにわかった。年端もいかぬ餓鬼のような高い声音は、いつか俺が相手を騙すためか挑発する為に使ったものだ。
 絵に描いたような天真爛漫、純粋無垢なそいつを俺は真月零と呼んでいる。いつか俺が九十九遊馬を陥れる為に名乗った偽名と同じだったが、当時作ったキャラと目の前にいるそいつがあまりにもそっくりだったので、そう呼ぶことにした。

 転生してから三日目、今日までの二日間を俺はこのボロアパートで過ごしている。アストラルがヌメロンコードを書き換え俺たちバリアン七皇を人間にするにあたって、居住スペースとして俺に割り当てられたのがここだったのだ。町の外れにある沈黙したこの古い建物で、唯一此処が俺の居場所であることを伝えたのが『真月』という薄っぺらいネームプレート。玄関の外でそれを確認して以来、俺は一歩も部屋を出ていない。

 ピンポンという呼び鈴が聴こえたのは、俺が二度寝を決め込んでから三時間後のことだった。芋虫の如く布団から這い出て、玄関扉の覗き穴から来客を確認する。中年の女が鍋を持って立っていた。知った顔だ。隣の部屋に住んでいる気のいい主婦らしく、一昨日は余った肉じゃがを持ってきてた。
 鍵をあけて扉を開く。

「……どうも」
「ごめんなさいね、起こしちゃったかしら。今日はカレーが余って捨てるようだったから食べてもらおうと思って」
「わぁっ本当ですか!?嬉しいです、ありがとうございます!」

 いつの間にまた現れた零が後ろから身を乗り出してきたが、奴の姿は俺以外に見えていない。無論声も聞こえない。女は勿論、俺も零などいないかのように会話を続ける。

「いいんですか、一昨日貰ったばかりなのに」
「たっぷり作ってね、冷蔵庫で冷やして食べるつもりだったんだけど、うちの子がもう飽きたって言い出したのよ。生意気よね、三日連続カレーくらい我慢してほしいわ」

 だから遠慮なくどうぞ。そう言って女が鍋を差し出す。中身を覗くと結構な量が入っていたから、三食分くらいにはなるだろう。すごい、と声をあげる零をよそにそれを受けとる。

「すいません、いつも頂いてばかりで」
「いいのよ。真月くんも、親元を離れて一人暮らしなんて大変でしょう。次はいつ向こうに帰るの?」
「……夏休み、だと思います」
「あら本当に。向こうでお母さんのご飯食べて、食生活きちんと直してもらいなさい。駄目よ、カップ麺ばかり食べてちゃ」

 頷くと、聞き分けのいい俺に満足したのか女はどうでもいい世間話を始めた。前よりは随分話を上手く合わせられるようになったと思う。この世界での俺は田舎出身で、進学をきっかけにこのハートランドで一人暮らしを始めた中学生。その設定さえ把握していればなんとかなる。
 女が喋り続けて満足したのを見届けると、俺は適当に会話を区切って扉を閉めた。振り返ると案の定零が上機嫌で立っていて、俺はわざとらしく溜め息を吐いた。零も零でそんな俺の態度にも慣れたらしい、キッチンに向かう俺の後を軽い足取りで付いてくる。

「よかったですね、ちょうどお腹すいてたから。朝ごはん作らないですみました」
「まぁ作るにしてもカップ麺に湯注ぐだけだがな。……ああ、米が無ぇ」
「お米なら向こうの引き出しに入ってたと思いますよ」

 ルーだけではカレーにならないことをすっかり忘れてた。結局はカップ麺以上の手間になることに気付いてしまったが、作ったものを受け取った以上は仕方ない。俺は零が指差した引き出しを開けた。

「……無ぇぞ」
「あっ無かったですか、残念です。そこにあるような気がしてたんですが」
「勘かよ」
「勘です。よかれと思って」
「うぜぇ……」

 予感はしていたがげんなりする。考えてみればこいつは俺自身が見ている幻覚なのだから、俺が知らないことを知っているはずがないのだ。駄目元で他の引き出しを開けてみたがやはり米袋は見当たらない。どうやらアストラルから俺に支給された食料は最初からキッチンに並んでいたカップ麺だけだったらしい。
 ルーだけでもまぁいいかと、俺は先程受け取った鍋からいくらかを皿に取り出して温めた。きっちり一分半待てば、レンジの電子音と共に中でカレーが湯気を出している。中々旨そうだ。

「カレーなんて久し振りですね。だいぶ前に、お店で食べたとき以来です」

 卓袱台のような小さなテーブルに皿を乗せ、床に胡座をかいてライス抜きのカレーを食べる。そんなときも零は向かい側に座って俺を観察していた。見られてるんじゃ落ち着いて食べれやしない。とっとと消えろと言ってもこいつは居座り続けるのだろう。まるで何かに取り憑かれたような気分になる。
 俺が思うに、こいつは俺が今まで生きるにあたって棄ててきたモノの寄せ集めだ。二度の生を通して下らないと嘲笑ってきた感情の全てを、奴は当然のように持っている。その塊であるといっていい。ここにいる真月零は夢であり幻だ。俺と同じ姿をした人間が、そんなものを持っている筈がない。その名の通り、ゼロ。本来ならば、存在しない。

「これから、どうするつもりなんですか


 何気ないふうを装って零が言う。さっきまでと同じ、軽い調子。だがその声に今までと違う意志がしっかりと宿っていた。聞いただけでわかる。こいつはずっと、そのことについて話したがっていたのだ。

「別に」

 だから俺は、奴の目を見ないまま同じように答えた。

「なぁんにも考えてねぇ」

 そうすることではっきりと零に意思表示する。何もしたくない。前に進む意欲はない。俺は変わらない。三度目として与えられた生は俺にそう思わせるほど、お粗末で貧弱なものだった。

 目覚めたとき、零を見て一番に思ったことがある。
 こいつは俺の分身かもしれないということ。前例はなかったが、力の一部が誤作動を起こして架空の存在である真月零を作ってしまったという可能性は十分に有り得る。もしかしたら転生したというのは自分の認識の誤りで、ドン・サウザンドから解放されたバリアンのベクターが、たまたまここに行き着いただけかもしれない。そう考えた当時の俺は、まず自分の首元を探ってみた。赤い球体のペンダント型、いつも首から提げていたバリアラピス。真っ先に革製の紐が指に引っ掛かる。――あった。目で確認して、よろよろと立ち上がる。思い付けば行動に移すのは早い。息を吸い込んだ。
 出来る。俺であるなら、出来るはずだ。このベクター様なら。
 ペンダントの位置に両手を持ってきて、ありったけの力を込める。見えない何かが胸元に充填されていく感覚。以前なら当たり前のようにあったが、今はそれが酷く希薄に感じた。それでも、やるしかない。一縷の望みをかけて。俺は叫んだ。
『バリアルフォーゼ!』
 視界を貫くような眩い光の色は、赤。それが胸元に集まって、一つの鉱石の形を作る。皮膚を破り、背中から黒い翼が大きく広がる。灰色の冷たい肌が露になる。それまでの面影は失われ、人間共が言うところの化け物に、俺は姿を変える。

 そうなる、筈だった。

 辺りはしんと鎮まり返っていた。俺は両手両足を広げたポーズでその場に静止していた。目の前にはさっきと変わらず、ひび割れた薄汚い壁。どうしたんですかとでも言いたげな目で零がこちらを見ていた。ピンポン、と玄関の方向から呼び鈴が鳴る。
『真月くん、お家にいるの?肉じゃがが余っちゃったから、持ってきたんだけど……』
 ――今は、まずかったかしら。
 扉の向こうから声がして、一瞬にして現実に引き戻された。人間として、バリアンとして、また人間として。三度目にもなる人生で、開始十五分、俺は早くも死にたいと感じた。


「何も考えてねぇよ。やりたいことも特に無ぇ。こーやってだらだらしてりゃ適当に時間は過ぎていくんじゃねえのか?家にまだ食料あるし、幸い隣のババアがことある毎に何かしら持ってきてくれるからな。食って寝てまた食って、その繰り返しでいいだろ。人間になっちまったんじゃ何も出来ねえしよぉ」

 口に運んだカレーをもぐもぐと頬張りながら言う。こんな感じになってしまうくらい、俺の新しい生に対するモチベーションは低かった。だってこんな体じゃ何も出来ない。中学生とかいう価値の無い肩書きだけを持つだけの、ただのお子様だ。愉快なことは何一つ浮かんでこなかった。権力や物理的な力を持たなくては、よからぬことも始められない。

「そんな寂しいこと言わないでください。ずっと家にいるんじゃつまんないまま終わっちゃいますよ。何処かに出掛けたいとか、そういうこと思わないんですか」
「思わないね。出掛けたってなんもやることなんか無ぇだろ。お前の言う通りつまんねえんだ、ああつまんねえ」

 つまんねえ、つまんねえ。
 零が見ている前だから、一層大きな声で言ってやる。何の工夫もない嫌がらせだった。俺の人生にお前の求めているようなワクワクやドキドキはありません。あからさまな態度で、それを伝える。

「……どうしてあの人たちに会おうとしないんですか」

 俯いた零がそれを言ったのは、少ししてからのことだった。やる気がねえだの下らねえだのひたすら繰り返していた俺は聞き間違いかと眉をひそめる。零を見た。

「……あァ?」
「どうして遊馬くんや、他の、七皇の皆さんに会おうとしないのかって、きいたんです。皆きっと、ベクターが来るのを待ってますよ」

 零の顔は至って真剣だった。俺は右手に持っていたスプーンを置く。その話題は俺にとってタブーだった。零の言葉に、屈辱的な記憶が僅かに刺激される。目を細めて、今度ははっきりと意思を持って、奴を睨んだ。

「……あれを見せたのもテメェの仕業か」

 空気がすっと冷たくなった。
 今でも鮮明に思い出せる。
 拳から伝わる衝撃、硬い地面、声、顔、手。『許してやるよ』と伝える。有り得ない記憶。

「なんですか、あれって」
「アリトに殴られる夢だよ。下らねえ悪夢だ」

 わかってる癖にわざわざ言わせんじゃねえよ。舌打ちしたが、零は動じなかった。こいつはいつもそうなのだ。俺が何を言おうと何をしようと、自分のペースを乱さない。真月零であり続ける。「違いますよ」と、当たり前のように首を振った。

「僕も見ましたが、あの記憶は僕が作ったものじゃありません。夢なんかじゃなかったと思いますよ、本当にあったことなんです」
「しらばっくれんなよ。あんなこと現実にあるわけねえだろ。お前も見たんだろ、あいつらは俺を一発だけ殴って、それでチャラにするって言いやがったんだぜ?」

 俺が一体何したか、あいつらは憶えてるってのに。
 現実にそんなことなんてあるわけがなかった。あれだけのことをして、許される筈がない。永遠に恨まれ続けるものと思っていた。実際にデュエルをした数名――メラグやドルべ、そしてナッシュ――は、俺を殺す気でいただろう。そしてそれは、俺自身も同じだった。そうでないと面白くない。本気の殺し合いを演じるなかで、俺はいかにして相手の精神を痛め付けるか、その術を熟知していた。奴らがもがき苦しむ姿を見ているのが快感だった。無様に体を地面に擦り付け、射殺すような視線で、奴らは俺に向かって吐き捨てるように言うのだ。
 地獄に堕ちろ、と。
 それすらも快感に変わった。

「仮にあれが本当にあったとしてだ、なんで奴らは俺を許すなんて選択が出来た?殺し合ったような相手とも来世では平和に仲よくお手手繋いで友情ごっこかよ。有り得ねえ。気持ち悪ぃ。どうしたらそんな発想に行き着くのか、是非とも説明してほしいもんだねェ」

 掌を宙に向け、俺はせせら笑った。過去のどんな過ちも許せるような、そんな聖人サマが世に何人もいて堪るか。一人で十分すぎるほどだ。そんな人間の思考回路を理解する気など更々ない。俺はそうして、考えることを放棄する。
 零が言った。

「……ベクターが思ってるのとは、たぶん、違うと思いますよ」

 気遣うような、言いづらいことを言うかのような声色。カーテンを閉じた薄暗闇に、気まずそうな零の制服姿がぼんやりと浮かんでいる。無意識に奴の顔を凝視していた。唾を飲み込む音。白い喉が動く。俺から目をそらしたまま、奴は小さく口を開いた。

「あの人たちは、過去を引き摺ることをやめたんです。やっと手に入れた新しい人生を、復讐なんてもののために費やすのが馬鹿らしかった」

 ツウ、と冷たい何かが通りすぎ、一瞬にして心を凍らせるのを感じた。頬の筋肉が動かなくなる。あのときと同じだった。一人だけ置き去りにされたような、そんな感覚。あのとき、何処でもない真っ白な空間で、俺が感じたのはこれだ。

「何、言ってんだよ」

 喉の表面だけが辛うじて震えたような、そんな声だった。それ以上の言葉が続かない。なにも返せない。奴らが俺を庇うのは。許すのは。俺のやってきたことは、奴らを縛り付ける力すら持たない。わかってしまった。その程度の価値だった。新しい人生で、奴らは俺に取り合うのをやめた。それだけのこと。無理だと言って思考を止めていた脳が一瞬で理解する。
 けれどそんなことで、自分が絶望している意味はわからない。

「前に進むしかないんです。僕達も七皇の皆さんも、もうバリアンじゃない。人間なんです。何の力も持たないし、争う意味もない。誰にとっても、人生はこれで最後なんですよ。だから誰かを恨んだままでいるなんて、そんなこと」
「うるせぇっ……うるせえ!てめぇに何がわかるってんだよ」

 零の言葉を聞いていられなかった。わかってる。頭ではちゃんと理解している。理解してしまった。気持ちはどうしようもなく揺れているのに、頭のなかは驚くほどクリアだ。
 誰も過去は振り返らない。いとも簡単に枷を外して、外の世界へ出ていこうとする。過去の自分と世界を、捨てていく。

「……終わらせろって、ことなのかよ」

 自分で自分の声を聞いて、俺は初めて、その理由を知る。
 俺がバリアンとして生きていた証は、何処にも残されていなかった。力を与えたバリアラピスはただの石ころと化していた。
 俺には何も出来なかった。
 無力だった。
 ナッシュとのデュエルに負けたときから。死にたくなんてなかった。バリアンのままでいたかった。俺はあいつらと違う。俺は。
 弱々しい声をあげる。
 俺は、人間になんてなりたくなかった。



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