道先案内人




眼鏡を外せば見えてくるの続き





「あれ、そんなとこで何しとんの?」

「市丸…?」

放課後日番谷と一緒に帰ろうと思って迎えにいくと、なぜか彼は廊下に這いつくばっていた。

なにかを探しているように床をまさぐっている日番谷は声に反応して顔をあげる。


「さっきコンタクト落としちまって…」

「あ。」

彼がそういった途端、なんとなく足の下に感じた違和感。はっきりとはしないがなんだか嫌な予感がする。

ゆっくり片足をあげてみると、小さな丸いレンズが床にぺちゃと貼りついていた。

「あの。もしかして、コレ…?」

「……あーッ!」

「あは、踏んでもうた」


日番谷は落ちているレンズを確認しようとこれでもかと床に顔を近づけて、ぼんやりとした視力でそれを認めると大声をあげた。


「あー。何て事してくれたんだ馬鹿やろう」

「……ごめんな?わざとやないんやけど」


わざとでないにしても人のものを使い物にならなくしてしまった罪悪感から日番谷の顔を覗き込むと、呆れたように肩をすくめられた。

「まあ、コンタクト自体は使い捨てだから問題ねぇんだけど…」

「けど?」

「全然見えねえ」


お前も俺の視力の悪さ知ってるだろ?なんて言ってくるから自分たちのファーストキスの事を思い出してちょっぴりにやけてしまった。
慌ててあかんあかんと表情を引き締める。

「せやな、今もボクの顔見えてへんのやろ?」

「うん」

「ほな帰り道危ないし家まで送るわ」

「…おう」

おう、とぶっきらぼうに言いながら少し照れたように目をそらした日番谷が印象的だった。



******



「そこ段あるから気いつけや」

「…おう」

服をきゅっと握った指先ににやつきそうになりながら、こんな状況を作ってくれた先ほどの自分を褒め称える。不謹慎なのは自覚済みだ。


「おまえ何にやついてんだ…」

「え、見えとるの?」

「見えてねえけど、なんとなく感じる」

「えーほんま?」

しかし指摘されたとはいえ状況は変わらず、日番谷は見えない不安から市丸の裾を強く握る。
そんな状態でにやつくなというほうが無理である。だって嬉しいものは嬉しいのだ。

なにも見えていない状態の相手から頼られているのは、すべて委ねられているような錯覚を引き起こす。
それが思いを寄せている相手ならなおさらだ。
日番谷が自分を頼っていると考えるだけで、自然と頬が綻んでしまうくらいには嬉しいのだ。


あまりにも嬉しすぎて、ふふふと音が漏れた。
それを訝しむ表情が向けられる。

「…なんか怪しいこと考えてるんじゃねえだろうな」

「怪しいことなんか考えてへんよー。あ、前から車来るで」

さらりと歩道側へ日番谷を誘導して、その拍子に裾を握らせていた小さな手を自分の手で握った。
温かな体温が手のひらに伝わる。


「…え、」

「こっちのほうが安全やろ?」

「あ、ああ…」


にこりと笑っていかにもな理由を告げてやると、日番谷は納得したように頷くものの、その表情は先ほどよりも硬くなっていた。
きゅっと力のはいる指先からも、緊張しているのが伝わってきた。


ああ、かわええなあ…


なんて。

不謹慎にも思ってしまうのだ。



End
―――――――――

前回の続きでしたがいかがだったでしょうか。
やっぱり視力が悪くてよく見えない設定は自分的にすごく萌えであります!(笑)
この日番谷くんはコンタクトにしてからも体育とかがある日以外は割りと眼鏡かけてそうです

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