ち、くしょ…っ

ハロウィンなんか、大っ嫌いだ…!!



* * * * *




「日番谷はんおるー?」

「いるけど…、何だそれ」

「お菓子持ってきたんよ、今日はハロウィンやからね」

執務中に部屋に入ってきた市丸は、大きなバスケットを両腕で胸の前に抱えるようにして持っていた。そのバスケットの中には大量の菓子菓子菓子。
飴やらチョコやらクッキーやら、溢れんばかりのお菓子が詰め込まれていた。


「日番谷はんに喜んでもらおうと思て、いっぱい持ってきたんや。一緒に楽しもうな?」

「おう」

菓子は嫌いではないし、ちょうどここ最近仕事疲れで身体が甘いものを欲していたところだ。
それにたまにはイベント好きな市丸に付き合って、こういう行事ごとを楽しむのもいいだろうと思い、日番谷は素直に市丸の誘いに頷いた。

このときはまだ『一緒に楽しむ』の本当の意味を、露ほども理解していなかったのだからしかたがない。
今考えると、あのときの市丸は何か企んでいるような、ニヤリとした表情で笑っていたような気がする。



「それにしても、その量すごいな…」

「せやろ?結構苦労したんやで、現世から取り寄せるの」

「ったく。そんなときだけは行動力あるよな、お前」

「まぁ、確かにな」

日番谷が呆れたように言うと、市丸はくつくつ笑って、何気なくお菓子の山に手を伸ばした。
机の上に置いたバスケットから棒つきキャンディを取り出す。

パリパリっと音を立てて包装紙を剥き、現われた白い棒の先にのっかった透き通る黄緑色の飴玉をペロりと舐めた。



市丸は時折チュパッと音を立てながら、わざとじゃないのかってくらいイヤらしく、官能的にその飴を舐めている。ちろちろ出される赤い舌に、日番谷はどきりとしてしまった。
目が放せない。


市丸は「甘いなぁ」などと呟きながら、白い棒の部分を指先で持って、くるくる回転させる。口の中に含まれた飴が歯に当たって、カラカラと音を立てた。


「……っ」


その一部始終を眺めていた日番谷は、ふいに目が合ったことで心臓を大きく跳ねさせた。咄嗟に絡み付いた視線を逸し、いかにも違うことを考えていましたという風に装って、ひたすら手に握った筆をもてあそんだ。
けれども市丸がそれに気付かないわけもなく、むしろこれも計算の範囲内だったりしたので、ニヤリと笑って日番谷のほうに挑戦的な視線を寄越した。


「なぁ、そんなに見て、どないしたん?飴ちゃん羨ましいの?」

「別に…見てねえし」

「嘘。見とれてたんやろ?」

「ちょ、近っ…」


ずいっと日番谷の方に近付き、その小さな顎に手をかける。間近で、この飴と同じ色に透き通った瞳をのぞき込むと、美味しそうな翡翠は視線から逃れようとするようにゆらゆらと揺れた。


「…ちゅう、してもええ?」

「だ、駄目に決まってんだろ…っ!」

口ではそう言うが、執務用の椅子に腰掛けている日番谷が迫ってくる市丸から逃れる術なんてなくて。

出来るだけ下を向いて顔を合わさないようにし、唇に降ってくるであろう温かい感触を思い、キュッと目をつむった。


次→
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -