ひざまずいて、足をお舐め3

ひざまずいて、足をお舐め3







「どれ、クザン。床と接吻させてやろう」

そう俺に囁きながら艶っぽく笑う彼の、その目にじわりとこもる熱を感じる。
あ、やばい。こいつ相当酔ってる。そう思った時にはもう手遅れで、俺は彼の提案通り、酒場のタイルにキスする羽目になったのである。
白魚のような、なんて形容のぴったりな白く細い指で俺の顔を床に押し付けながら無邪気に笑うのはナマエ。海軍本部の少将で、俺とは同期にあたる。じゃあなぜ俺が今同期に軽い辱めを受けているのかといえば、話は二時間前にさかのぼる。



ただサカズキに書類を渡すだけのつもりが売り言葉に買い言葉でちょっとした口論になってしまい、気がつくと就業時間をとっくに過ぎてしまった。今夜は自分の部下と飲みに行くことになっている。
自室に戻ると、机には予約した店に先に向かっているという旨の伝言メモが置かれていた。予約した店の名前から簡素な地図までしっかり記されていて、マイペースな俺にぴったりなきちんとした部下だなあと、メモ用紙をつまみあげる。すると下の方に走り書きで「就業間際にいらしたナマエさんもお誘いしました。一緒に店に向かいます」と書かれているのに気付いた。
この部下は真面目なところが美点であり欠点でもある。恐らく、俺の同期だからと気を遣って無理やり連れて行ったに違いない。嫌な予感がする。

俺にしては珍しく小走りで酒場へ向かうと、案内された個室の入口で部下の一人が既にのびている。慌てて駆け寄ると、「ナマエ少将が、」という一言を残して意識を手放した。ホラー映画かよ。
個室のドアを開けると、部下がナマエの両隣に座りそれぞれ酌をしているところだった。
ナマエの横にごろごろと転がっている酒瓶を見て、俺は自分の顔が青ざめるのを感じる。いくら飲んでも顔色が変わらないため気付かれないが、ナマエは恐ろしく酒に弱い。今も部下に酌をされるがままに飲み進めているが、そろそろ限界のはずだ。
とりあえずと、俺は水の入ったカラフェと空のジョッキを持ち部下とナマエの間に割って入る。「ナマエばかりじゃなくて、俺にもついでくれよ」と声をかけると、ほろ酔いの部下は何の疑問も抱かず俺のジョッキに酒を注ぎ始めた。
その間に、ナマエに水を飲むよう促す…つもりだった。が、

「なんだ?私の酒を奪うつもりか?」

顔も声色も全く変わらないので多分周りは気付いてないだろうが、長い付き合いの俺はわかる。こいつ、相当酔っていて、しかも酒のせいかいつもより饒舌になっている。
俺は部下に酒を注いでもらいながら、周りに気付かれないようにナマエに小声で話しかけた。

「ちょっと、アンタ。なにしちゃってる訳?」
「なに、とは?」
「入口で伸びてた俺の部下だよ。どうせナマエが潰したんでしょうや。こんなことやってるとまた変な噂が流れるぜ」
「変な噂?元を正せば貴様のせいだろう」

ナマエがぎろりと俺を睨みつける。そうなのだ。”ドS少将”などと実に不名誉な称号をもらっているナマエだが、元はと言えば酒宴で俺が適当についた嘘がきっかけだ。それが広まるだけ広まって、今や海賊にまでそう認識されているのだからさすがに気の毒ではある。

「アー…まあ、それはね?俺も悪かったと思ってるわけよ」
「ほう。三歩歩けば忘れると思っていたが、意外だな」
「まあ、ごめんね」

そう言って肩をすくめると、ナマエは「ふうん」と声をあげ、何かを考えているような仕草をした。少しだけ黙った後、ぱっとこちらを見るその目はきらきらとしていて何だか俺は不安になる。

「そうだ、せっかくだ。お前が周りに吹聴した通りにしてやろう」
「……は?」
「私が虐めてやろうと、そう言っているのだ」

艶然と微笑みながら、俺の顎にするりと細い指を寄せる。のも束の間、その爪をぎちぎちと俺の皮膚に食い込ませてきやがった。

「いてェッ!おいっ!お前…」
「どれ、クザン。床と接吻させてやろう」

ナマエがぐるりと回って、気づいたらすぐ側に床。ころころと鈴を転ばすように笑うナマエごしに、青くなっている部下たちの顔が見える。ああ、もうこれは俺にもどうしようもできねえわ。



翌日、二日酔いで眉間に皺を寄せたナマエに昨夜の事の次第を求められたが、「俺は止めたんだからな」とだけ返した。
その後本部の間で、”ドS鬼畜少将ナマエ”の噂がさらに広まったのは言うまでもない。







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