とこやさんと火拳

とこやさんと火拳
※主人公は小型艇を手に入れ出張床屋さん中






見覚えのある海賊旗を確認し、船を寄せる。銃を構える見張り番に敵意はないことと、人と約束していたことを告げると、ややあってコックコートに身を包んだサッチが船内から飛び出してきた。よほど急いだのか、息があがってる。

「ナマエ!!」
「サッチさん!久しぶり!」
「迷わなかったか?!」
「うん。クザンさんに近くの島のエターナルポーズもらったから」

そう言うと、サッチは少し顔を顰めた。クザンさんに助けてもらったことなど経緯は一応伝えてあるものの、やはり海軍大将の名前を出されて嫌な気持ちにならない海賊はいないだろうと、俺は苦笑する。
サッチは俺の小型艇を手早くモビーに舫うと、船内に招き入れてくれた。厨房にたどり着くとお茶菓子とコーヒーを出してくれる。白ひげは精密検査中だということで、終わり次第乗船の挨拶に向かうようだ。


「いやあ、でもまさか本当に来てくれるとは思わなかったなあ!おれ、ずっとお前に…」
「お前か!サッチのいい人は!!」

サッチが何かを言い終わる前に、背中にどすんと衝撃が走り、クッキーを頬張っていた口からぐぐ、と小さくうめき声が漏れる。口に入れていたのがコーヒーじゃなくて本当に良かった。

「おい!勝手に入ってくるなって言っただろ!!」
「いいじゃねえか!俺だってずっと会ってみたかったんだ」

悪びれずにそう言い切ると、こちらを向いてにかりと笑うこの顔を、俺はよく知っていた。少し癖のあるゆるい黒髪、そばかすだらけのこの男は。

「エースだ……!!」
「おっ!知ってる?俺も有名になったなあ」
「ナマエ、変なことされそうになったら迷わず丸坊主にしろよ」

サッチが犬にでもするみたいにエースの頭をわしわしと撫でるものだから、解放されたエースは随分とよれよれになっていた。俺は笑いながら腰のホルダーからブラシを取り出す。

「あはは、すごいことになってますよ」

エースの髪を一束掬うと、からまった毛先から丁寧にほぐしていく。されるがままに目まで細めるエースはブラッシングされている犬のようでおもしろい。

「ありがとな、おれすっげえクセ毛だからさぁ」
「いえ、かっこいいですよ!この巻きにワックスをもみ込んでゆるふわパーマっぽくスタイリングすればさらに……あちっ」

エースがいきなり火の粉を出すもんだから思わず身じろいだ。すかさずサッチがエースの頭をはたく。

「おいエース!ナマエを燃やしたらぶっとばすどころじゃ済まねえからな」
「ッ、わりィ!でも、お前が!かっこいいなんて言い出すから」
「え、エースさんかっこいいじゃないですか!」

俺すっごい好きですけどね!とワンピースの数々のエピソードを思い出して、俺はにこにこしてしまう。
エースは文字通り、顔から火を吹いてしまった。どうやら盛大に照れてしまったらしい。
少しカットもしたいという俺の申し出を快諾してしてくれたエースに引っ張られ、そのまま甲板に移動する。毛量が多かったので、少しだけ髪の量を減らすようにカットし、毛先も整える。良い出来栄えだったのかバックミラー越しにうつるエースの顔は随分満足そうだった。

「こんなもんでどうでしょう?」
「ああ!ありがとう!だいぶさっぱりした」
「それはよかった」
「あ〜あ、本当はナマエに一番カットしてもらいたい奴がいるんだけどなあ」

エースがため息をついたあと、にやりといたずらっ子みたいな顔で笑うので俺は首を傾げる。誰だろう。手招きをするのでそっとエースのほうへ顔を寄せると、耳うちしてくれた。

「うちの、パイナップル頭だよ」

パイナップル、なんて形容の似合う頭は一人しかいない。堪えきれず思わずふきだしてしまうと、エースも大きな口をあけて笑い出した。

「ナマエもあれは挑戦してみたいと思うだろう?手配書じゃなく実際会って見るとすげえぞ!インパクトが!」
「たしかに、どんな構造してるかは気になります」

笑いすぎて、目に涙が浮かんでしまう。言っておくが、マルコはワンピースの中でも上位に食い込むくらい、俺の中でお気に入りのキャラクターだ。あの男の渋みがいいと思う。しかし、それと、理容師の知的好奇心はまた別なのだ。
今、マルコはほかの島に偵察へ向かっているということだった。でも「今度はマルコがいるときに来いよ」とエースが電伝虫の番号を渡してくれたので、近いうちあの髪型の秘密が解明されるかもしれない。楽しみだ。

せっかくだからマルコはじめ白ひげクルーの色んな話をエースに聞こうと思ったのだが、食堂に一人置いていかれてすっかり拗ねてしまったサッチの機嫌を元どおりにするのにその後はたっぷり時間を費やすことになったのである。

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