ひざまずいて、足をお舐め4







「……サカズキ。私のことが苦手なのは勝手だが、人が報告をしているときくらい話を聞いたらどうだ?」

ため息まじりに囁く声に、俺はハッと顔をあげる。目の前には、任務報告をするために俺の執務室を訪れたナマエ少将。読み途中の報告書をめくる手を止め、彼にしては珍しく困ったような顔をしていた。

「すまん。続けてくれ」

そう声をかけると、彼はまたすっといつもの冷たい表情に戻って報告を再開した。

そうだ。ナマエが言ったとおり、自分の同期であるこの男のことを俺は苦手に感じていた。苦手、というのは少し違うような気がするが、その感情にはっきりした名前をつけられないのだから仕方がない。
もともとクザン以外とは、用事がない限りほとんど話をしないナマエとはこうして同じ任務でもしない限りほとんど話す機会はなく、苦手意識はどんどん強くなっていくのだった。

「報告は以上だ」

ナマエはぱん、とファイルを閉じると机上に提出する。俺は指でちらりとファイルをめくりサインなど書類形式に不備がないか確認するが、相変わらずこいつの仕事は文句のつけようがないくらい完璧だった。あいつとは大違いだ。

「ほう。あいつとは、クザンのことか?」
「あァ?」

考えているだけのつもりがうっかり声に出していたらしい。まあな、と返事をするとナマエはすい、と口端をあげて意地の悪い笑みを浮かべた。

「あれの怠け癖は治らんよ。訓練生時代から骨身にしみて分かっているだろうが」
「お前があの根性を叩き直せばいいじゃろ」
「叩き直す、か。……サカズキ、まず自分の部下の性根から叩き直したらどうだ?」
「なにィ?」

突然自分の部下の文句を言われ、とっさに顔が歪む。だが、目の前の男はそんな俺以上に不機嫌な顔をしていたので、思わず首をかしげてしまう。

「何じゃあ、突然」
「いや、なに。言うか迷ったのだがな。……先日、この私をよりによって手篭めにかけようとした奴らがおったぞ」

思い出しながら段々腹が立ってきたのであろう、腹の底から唸るような声を出すナマエに俺はひやりとしたものを感じた。いったい誰が。いや、この場合考えるのはそこではない。この男は、

「大丈夫じゃったんか?!」

俺は慌てて立ち上がると、机越しにナマエの肩を掴む。獣のような野蛮な顔をしていた男は一瞬目をぱちくりとさせた後くすりと笑った。

「意外だな。お前でもそんな声を出すのか」

妖艶に微笑む男に指摘されて、俺は今度は自身の顔に熱が集まっていくのを感じた。とっさにつかんだ肩から手を離す。

「安心しろ。大事無い。……むしろ、この場合は向こうを心配すべきだな」

ナマエはにやり、という形容がぴったりの笑みを向ける。

「なにかしたんか」
「なに、貴様に代わって少しだけ仕置しておいた」
「仕置き?」
「躾けといったほうが正しいか。ああ、でも順番が逆だな」

ナマエが机に手をついて身を乗り出す。さらりと肩からこぼれる長い髪、同じ男とは思えないくらい白い肌、長い睫毛で縁取られたその大きな瞳には、間抜けな顔をした俺が映っている。
いつの間にか吐息がかかりそうなくらい彼の顔が近づいてきたが、俺はその美しい顔から視線を外すことができなかった。

「子を正すにはまず親からと言うしな。どれ、貴様も私が躾けてやろうか?」

そう言って、舌でぺろりと自身の唇を湿らせるナマエの仕草に、ぞわりと欲が走ったのが自分でもわかる。そして、自分が彼に抱いていた気持ちの正体にも気付き、背中にどっと汗をかいたのだった。

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