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「ニナって料理好きなんだな」
「たまにしかやれないけどね」
「へー!あーうんまそ〜」

この船に乗って1週間ほどたった。
基本的に体の調子は戻り、何もせずにはいられない私にローが与えた仕事はコックさんのお手伝いだった。元々嫌いじゃないし、とそれを受け入れペンギンとシャチを前にちゃかちゃかとご飯を作る。

ローはあれ以降、私とあまり喋ることはなくて。こうしてご飯を作っていても、食堂の端っこの席に座って長い足を組んで、本を読んでいる。

『この船に乗れ、ニナ』

そう誘われて時間も経ち、このままなあなあといる訳にはいかないことは分かっているし、…私の心も決まっていた。だけどどうにも切り出すタイミングが無くて…。度胸なしだ。彼の姿を視界に入れてからまた鍋に目線を戻す。合わない目線に、ため息をひとつ落とした。

「あ、ッ」
「ちょ!ボーッとしてるから!」

そんなことを考えていると、じゅっと鍋に手を付けてしまった。慌てた様子でペンギンが駆け寄って来るが、そんなペンギンよりも早く私の手を取ったのは

「っ、ロー?」

ただただ無言で私の手を水で冷やす。(無言に圧力を感じる。)キュッと蛇口を閉めると、来いと一言だけ言って私の手をそのまま引いて歩き出してしまった。「え、」と、反論する間もなく、私はずるずると連れていかれた。

「…キャプテン、ずーっと見てんのな」
「な。せっかくだし近くで見りゃいいのに」
「ほんとに好きだよなぁ。ニナのこと。」
「だけどさ、それを言うならニナも…」

そんな会話がペンギンとシャチの間でされたことは、知る由もない。





…………圧。が、すごい。
「ボーッとして料理してるからだ」と言いたげな目線に、それを感じて冷や汗をかく。
少し赤くなったそこに軟膏を塗ってガーゼを止める手つきはまさに”医者”そのものだ。その姿からは「死」なんて物騒な言葉がついているとは思えない。
じ、と彼の顔を見つめていると、不意に上がった金色の瞳とばちりと目が合った。なんとも気まづくなって目を逸らしてしまったけれど。

「…風呂なんかだと少し滲みるかもな」
「了解です。…ありがと」

話題を変えるようにそう言ったローに、私はお礼を言って席を立つ。そして部屋から出ていこうとするけれど、私は今まで逃していたこれからの話をするタイミングは今しかないのではと気がついた。
はっと後ろを振り向こうとすると、香水の香りと僅かな温もりにぎゅっと包まれる。

「……言うな」
「…え…?」

ボソリと低い声で呟かれたその言葉。
驚いて顔を見あげようとするけれど、どうにもうまく隠されていて見えない。

「…お前は、この船に乗る気はないだろう」
「…分かってたの?」

そう、私はやはり
この船には…海賊には、なれない。
今なら言える。海軍を正義とは言いきれない。
けどそれは、海賊も同じ。
だからその曖昧さにまた苦しむくらいなら

「島で大人しく過ごすわ」

やけに饒舌だった。
黒ひげの任務のとき一瞬でも酒場で働いて楽しかったこと。島に降りたらそういうことをしたいということ。ただそうやって働いても海軍のみんなに会えはしないこと。
何だかタイミングが掴めなくて怯えていたわりに、喋りだしたら止まらなくて、ローの腕の中でぼそぽそと話し続けた。
それをローは黙って聞いていた。

「だから、ローも」
「……… ニナ」

ふと、私の言葉を遮ったローは、ぐっと肩を痛いくらい掴んで私の顔を見下ろした。

「この船に乗らねェことは…仕方ねェ。本当だったら手足縛ってでも連れていきたいが…」
「物騒な考え」
「お前は、嫌いだろう。そういうの」
「ええ、嫌い」
「じゃあ、俺はやらねェよ」

なんだか、こんなやり取り、前にもした気がする。ふわりと私の頬を撫でながら優しくそう言葉を紡ぐローの掌に、私は擦り寄った。
安心を覚えてしまったその掌。私をどうにか引き寄せようと贈り物を繰り返し、私を助け、命を護りさえするその掌。温かさに溢れた、掌。
その私の行動に、ローはびくりと手を強ばらせてから少し目を見開いていたが、すぐにその掌に力が込められた。

「…せめて、お前の心を俺に寄越せ」

まっすぐに、私を見つめて。
その瞳の奥にある、期待と不安の、色。それが何だか物珍しく感じながらも、可愛らしく感じた。

「どうぞ」

そう返事をした途端、塞がれた唇。
幾度と彼には奪われてきた、それ。
1度は明確に”受け入れようとしてしまった”、それ。

今は”愛しい”、それ。

する、と背中に腕を回せば更に熱が込められるその行為に、背中にビリビリと電流が走るようだ。今までイタズラにされてきたそれとは違う、愛情だらけの、キス。
ゆっくりと離れた唇が、少し、物寂しいくらい。

「………本気か」
「ふふ、本気」

この1週間、船に乗ること以外にも考えていたことがある。私は多くの人に愛を向けて貰っていたし、それをどうしたらいいか分からなくて、あしらってばかりいた。本当に、贅沢者。だけど、もうこの人の愛を…ローの愛なら、あしらうのではなくて…受け入れたいと、思ったのだ。
私も、愛したいと思ったのだ。

「クソ…俺は躍らされてばかりだ…」
「ふふ…ごめん」
「好きだ、… ニナ」
「うん。…私も、ローが好きみたい」

もう1度重ねられた唇に、彼の温もりを感じながら、静かに瞼を落とした。










最上級の













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