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  30


薄らと開いた目に、白い天井とチカチカと光る電気が写る。あまり動かない体をそのままにそれを見つめ続けていると、自然と涙がこぼれた。

生きて、いる

青キジさんに抱きしめられ、技を発動された。体がみるみるうちに凍っていって、もう何も分からなくなった。でも、最後、青キジさんに殺されるのならと、思った。ふと目を瞑ると意識が飛ぶ最後の最後に、確かに囁かれた一言が脳裏に蘇った。

『────生きて、』

優しい声が頭の中で響く。
私は、…生かされたのだ。
情けなく、悔しく、もう私の帰れる場所はないのだと、なくなってしまったのだと実感する。ただただ止まらない涙を、流し続けた。









『もし、ニナを殺す命がでたら…お前はそれを実行しろ』
『…なんだと?』
『本当に殺せってわけじゃねェ。お前なら、仮死状態にでもなんでもできるはずだ。…あとは、俺がニナを貰い受ける』

数刻前の青キジとのやり取りが思い出される。ニナを生かすためなら強行策しかとることができなかった。が、まさか青キジもこの策に乗らなくちゃあいけねェほど、追い詰められていたということか…。敵ながら…同情した。あの時、俺を横目に見ていた青キジの瞳は、こうなることを予感していただろうと感じさせるけれど。

肝心な女は、数分前に目を覚ましてからはベッドの上で静かに涙を流し続けている。啜り泣くわけでも、大声で叫ぶわけでもなく、ただ、静かに。
俺はそれをドアに寄りかかって、見つめていた。
黒ひげのところから助け出し、ここで目を覚ましたときとは違い、ただただ自分の無力と生きながらえた苦しみと闘っている。俺には、そう見えた。

真っ赤に目を腫らしたニナは、とうとうベッドから起き上がった。すると俺に気づいて、「いつから」と短く質問をしてくる。俺はそれにさァな、とだけ答えて彼女の傍に寄った。近くで見ると、泣き腫らしたひでェ顔だが……絶望はしていなかった。

「…どんな気分だ」
「………最悪よ」

俺の顔を見上げて言葉とは裏腹にへらりと笑うニナがどうも愛おしい。(笑えてはいねェけれど)頬に手を伸ばすと、びくりと体を揺らしたので思わず手を止めた。
青キジに抱きしめられた末、技をかけられたニナは少なからず体に触れられることに恐怖心があるようだった。

「…柄でもねェが」
「…?」
「お前が生きていることを、実感したい。」

じ、と瞳を見つめる。
もちろん、俺が提案した策だ。もし実行されたなら凍ってしまった瀕死のニナが俺たちの元に流れて来ることは分かっていたし、実際、処置も的確に行えた。
…が、俺は、確かに恐怖した。
ニナを救えない可能性に。
ニナが目を覚ますまで、部屋から離れられなかった。………柄でもねェ。本当に。どれだけコイツに惚れているか、嫌でも実感する。

「…どうぞ」

ニナは小さく返事をして目を瞑る。俺は静かに頬に掌を当てた。まだ冷たい。が、その奥に確かに温かさがあって、心臓の鼓動が感じられて、少し安堵してしまう自分がいた。
目を瞑るニナを見つめていると、どうも唇に噛みつきたくもなるが、今、それをするべきではないと俺の僅かな良心と理性が叫んでいる。

「…死んだ方がよかったか」
「………さっきはちょっとそう思ってた」
「今は」
「生かされたんだもの。……生きなきゃね」

力無くも、そういって微笑んだニナは、やはり俺が惚れた女だった。

「…これからどうする。海軍には当然戻れない。お前は死んだことになったはずだ」
「適当な島に下ろし…」

「この船に乗れ、ニナ」

言葉を遮って、俺はそう言った。
俺の言葉にどうやら心底驚いたのか、目を見開いてこちらをぱちぱちと見つめてくる。数秒後には、馬鹿なの?と眉間にシワを寄せた。俺はその眉間に1発デコピンを食らわせてやる。いだっと間抜け声を上げるニナに、思わず口角が緩んだ。

「俺はお前に言ったこともあるはずだ。そろそろ海軍をやめる気になったか、と。」
「…私に、海賊になれと?」
「自分の現状を見ても、まだ海軍を”正義”と言うのか」
「…………それは」

口ごもるニナを見て、少し後悔した。今彼女にそんな話をさせるべきではなかった。そう思い直して、帽子を深く被り直す。

「……考えておけ。」
「うん」
「いつでも歓迎する」
「……うん」

また下を向いてしまったニナを後ろ目に、俺は部屋から出ていく。すると心配そうに部屋の周りをうろうろしていたベポ。何か温かいもんでも持って行ってやれと言うと、ぱあっと明るい顔で返事をすると走って去っていった。
追い詰めるつもりはない。
ただ、俺は、ニナが欲しい。









我儘だとしても









俺の傍にいてほしい

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