×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



  16


あのあと。
びちゃびちゃに濡れた2人でクシャミをしてから、やっぱり風邪を引くとサボに引きずられて街まで戻っていくと、ビタリと止まった足。背中にぶつかりそうになったが、なんとかわたしも止まりきってそれを逃れた。
そろり、と顔を見上げると険しい顔。

「悪い、家まで送れなくなった。あとは自分で帰ってくれ。」
「そもそも、1人で帰るつもりだったけど」
「つれねェなァ!ま、お前に会えてよかったよ、ニナ。…また会おうぜ!」

ニッと誰かにそっくりの暖かい笑顔を残して、彼はそのまま去っていった。
なんだったのか、とその姿が消えた方を見つめていると背後から影が私に落ちる。

嫌な気配がしないその影を作る主を見上げると、見知った顔。

「何しちょる」
「赤犬さん…?なんでこんなところに」
「こっちのセリフじゃ。怪我で休暇のおどれが、びしょ濡れでこんなところにおる」

帽子で半分くらい顔が見えないその人は赤犬さんだ。(なるほどそれでサボはいなくなったのか)
1人で納得しながらまた道の先に目をやると、ガっと腕を掴まれる。
それに驚いて、私の倍以上ある彼を見上げるとあからさまに、不機嫌そうな顔をしていた。

「質問に答えい。何をしちょった」
「…お散歩ですよ。お菓子を探しに」
「…………」

納得がいかない、と言わんばかりに眉間にシワがよっていく。そんな赤犬さんに、彼のことを誤魔化すようにお菓子おすそ分けします、と微笑むと、無言のまま私の腕を引いて歩き出した。
ぶっきらぼうに見えて、腕を無理矢理引っ張ろうとしている訳では無い赤犬さん。なので痛みは感じず、むしろ、彼の能力のせいで人より少し高めの体温が腕にじんわり伝わってきた。

家につくとそのままシャワールームに押し入れられた。
そしてそのままバタン、とドアを閉めてしまった赤犬さんに、私は急いで声をかけた。

「あ、赤犬さんっ」
「………何じゃァ」

「ベッドの隣の棚!の2段目に、赤犬さんの好きなお菓子あるので!食べて待っててくださいっ」

そう、ドア越しに叫ぶけれどそれから返事はなくて。
聞いてくれたかな、ちゃんと待っててくれてるかな、来てくれたお礼がいいたいな、お茶も入れられなかった、と、いろんなことを考えながらとにかく足早にシャワーを済ませる。
もちろん、早すぎると、赤犬さんがいてくれたときに「もう一度入ってこい」と怒られてしまうのが分かっているから、ちゃんと温まった。

タオルを頭に被せたまま、急ぎがちにシャワールームを出ると、ソファに深く腰をかけているけれど、私の顔を見てしまった、と罰が悪そうにする赤犬さんが。その口には、いつもの葉巻じゃなくて、真っ赤なお煎餅。
それだけで私は嬉しくて仕方ないのだ。

「やっぱり!それ!赤犬さん好きなんですね!」
「………たまたま、おどれが寄越す菓子にしては食えると思っただけじゃア」
「ふふっ!なら、よかった!」

黄猿さんからずっと前に聞いた「赤犬さんは辛いものが好き」の情報。だから、赤犬さんにあげるお菓子は辛いもの、と決まっていた。
ただ、私はお菓子を渡すけれど、当然食べている姿はみたことはなくて…捨てちゃってるのかな、とか口に合わないかな、と心配していたのだ。(なんだかんだ受け取ってくれるんだけどね)

「オイ」
「えっ、あ!なんですか!お茶ですか!」
「違う。…髪を拭け。風呂に入った意味がなかろうが」
「でも赤犬さんがいらしてるんですし…!」

「わしが来てるからこそ、いつものおどれでいろといっとるんじゃ」

じ、と鋭い目線がこちらに向けられる。
ドキリと、心臓を掴まれた気持ち。いろんな意味で。
その圧に、はい、と仕事に戻った気分で返事をして、もう一度シャワールームに駆け込んだ。髪を乾かして簪で結い、服装も整えてそこからかけでる。
私の姿を上から下まで目線で見つめたあと、少し満足そうな顔をしてもう1枚お煎餅を口に運ぶ赤犬さんを見て、なんだか少し安心した。
はっとして、すぐに緑茶を入れて差し出すと、赤犬さんはすぐに受け取ってずずっと口に流し込んだ。
この間、基本的には無言なのだけれど、赤犬さんとの無言の時間は、嫌いじゃない。(怖い雰囲気のときは、苦手だから近づかないけれど)

「…………怪我は」
「あ、大分良くなりました。戦うには、まだちょっと痛むんですけど」

「早う復帰せい。そのくらいの怪我はつきもんじゃけェ。弱音なぞ吐くなよ」

いつも通り、に言われるそれには静かに圧が込められていて、体が少し強ばる。ただそれは、単純な恐怖ではなく、さらなる覚悟だ。
返事をしようと口を開くと、「それに」と赤犬さんにそれを阻まれた。


「おどれがおらん本部は、…少しつまらん」


お菓子効果なのかな。
赤犬さんがこんなことをいってくれるなんて。

そんなちょっとした嬉しさを感じて、赤犬さんの顔を思わず見つめてしまう。少しバツが悪そうに目を逸らした赤犬さんが、なんだかいつもより身近な人に思えて、かわいいなんて思ってしまったのは、心の中にしまっておくことにする。








Last means








逸らされた瞳の意味すること


prev next

[back]