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  8


あれから、髪を結っていない。
箱を開けては閉めを繰り返す毎日。
赤髪のことは、怖かったけれどその後もいろんなバタバタがあったおかげで深く気にしすぎることなく過ごせている。
…とかいいながらも、髪を結わない時点で気にしているのか。
溜息を一つ落として、鏡の前に立つ。
いっそのこと、髪を切ってしまえばいいとも思うけれど、それなりに手入れをして伸ばし続けていたことと、武器となるものが一つ減るということもあって、あまり乗り気にはなれなかった。

今日こそは、と一度あの簪を手に取ってみるが、赤髪の眼光が思い出されると同時に、壊されてしまったもののことを考えてしまう。
自分が武器として使って壊れたのではなく、意図的に壊されたそれ。
罪悪感に打ちひしがれる。
簪にも、私に贈ってくれた彼にも。

はあ、ともう一度溜息をして、部屋から出る。
すると、ばふんっという柔らかいモフモフしたものに正面からぶつかった。
白いそのモフモフを見上げると、熊。


「きっキャプテーーーン!!!!海軍がいるうう!!」


ぎゃーっと大きな声で叫ぶ熊に見覚えがあった。
たしかこの熊は、

「あァ、俺が飛ばしたからな」

ハートの海賊団の船員だ。





この前は私の船の上だったけれど。
また彼の技一つで武器をすべてもっていかれてしまった私は、なぜか彼の船員にお茶を出され、お菓子を楽しんでいる状況にいた。

「少佐なんでしょ?ニナって」
「…そうよ」
「睨むなよお!別に悪さしねェって!」
「海賊の言うことを信じるとおも」
「そんなこといいながら、お菓子はめちゃくちゃ食うのな」

熊と、帽子でほとんど顔が隠れた二人組の男。
一人は、ローに耳打ちしていた男だと、思う。確か。
敵同士にも関わらず、へらへらと話しかけてくるのは「キャプテンが大丈夫だといっているから」だそうで、あの男、見た目とか性格によらず信頼されていることが分かった。

「お前ら、邪魔だ。」
「キャプテンひっでー!」
「バラすぞ」

「「「アイアイ、キャプテン!!」」」

熊の叫び声に返事をして私の武器を奪って以来、姿を見せていなかった男が部屋に入ってくる。
ローがぴしゃっと船員たちを睨みつけると、そそくさと3人(…2人と1匹?)は出て行ってしまった。

それから、彼とバチリと目が合うが、すぐにそらす。
ちょうど朝方この男のことを考えていただけあって、なんともいえない気持ちになった。
長い指が私の髪を救い上げたことに気が付くと、ローはそこに一つキスを落とす。また、そういうキザなことを、とそれを払おうとしたが、私を見つめる金色の瞳にギクリと体が動きを止まってしまった。


「…結わないのか、髪」
「…別に」
「赤髪からもらったんだろう。新しいものは」

「…やっぱり、知っているのね」


この前、黒足が部屋にやってきたときのことを思い出す。

『赤髪のシャンクスに会ってからニナさんが体調を崩したらしいって、ローの奴が言っててさ。』

黒足を私の部屋に送り込んだのも、この男の能力で。
同盟を組んでいる麦わらの一味と情報のやり取りが頻繁に行われてることが想像できる。
あの時、自分ではなく黒足をわざと私のところに行かせた。
…のは、妙な気遣いかとも、思っていたけれど。

「何故使わない」
「…私の勝手でしょ」

「俺が贈ったものは、使ったのにか?」

悪い、笑顔。
優越感と、自信が満ち溢れた、表情。
私はそれからさっと目をそらす。
ローはふっと鼻で笑ってから、私の隣に腰を下ろした。

「まァ、お前のことだ。特別な理由があって使ってたわけじゃねェことも分かってる。赤髪からのものを使わないのも、どうせ俺に悪いとか思ってるんだろうが…」

気まずそうにする私をよそに、やけに饒舌な彼はぺらぺらと話し続ける。
そして、机の上から本をとったかと思うと、私はいつの間にかローの膝の上に座っていた。
私が座っていたところには、本がぽすんと落ちてくる。

「…好きなの?海賊はこの姿勢が」
「あ?」
「ドフラミンゴも、こうさせてきたから」

感じていたデジャヴを正直にそのまま伝えると、眉間にぎゅっと皺がよったローにそのままソファに押し倒された。


「他の奴はともかく、ドフラミンゴと一緒にされるのは御免だ」


つう、とローの長い指が私の頬に触れる。
そのくすぐったさに、ぴくりと肩を震わせると不機嫌そうにしていたローの表情がまた上機嫌へと変わっていく。
…海軍の中では、”死の外科医”トラファルガー・ローは、表情が読めなくて冷酷でよく分からないやつだ、と有名だけれど、私は、表情は結構わかりやすい男だと思っているし、表情もコロコロ変わる方の人間だとも思う。

「…使ってやればいい、赤髪の簪」
「、…」
「なんだ、その顔」

「…いや、ちょっと意外だったから」

この男も、赤髪同様、簪を壊してしまうと思っていた。
自分が贈ったものを壊した張本人のものだから、仕返し、的なやつで。
そういうと、ローは口元をゆがませた。

「お前は、嫌いだろう。そういうの」
「ええ、嫌い」
「ッフフ…じゃあ、俺はやらねェよ」

質問に即答したことが面白かったのか、ローは笑いながら私の上からどいた。
私もそのまま上半身を起こすと、また能力を使って今度はあの小箱を掌の上に出現させる。
私の制止なんてよそに、そのままふたを開けて簪を見つめると、「赤髪め」と少しだけ悔しそうに笑った。
それを私が不思議そうに見つめているのに気づいたローは、箱をずいっと私の前に突き出す。

「ほら、悪くねェ品だ」
「…何故、そんなに私にこれを使わせようとするの」
「…そうだな。これを使っていれば、俺のことを考えるだろう?」
「…は」

「罪悪感でもなんでもいい。俺はどんな形であれ、お前が俺を考えてしまうきっかけができればいいからな。」

開いた口がふさがらないとは、まさにこのことだ。
しれっとそんなことを言い放つ目の前の男。
今朝もそうだったろう、と図星を言われ、顔が火照る。そんな私を喉の奥で笑ったかと思えば、する、と私の髪を持ち上げた。
箱から丁寧に取り出したそれを使って、髪を結い上げる。


「…悔しいが、それはニナによく似合う」


さっきまでとは違う、あまりに優しい微笑みにどきりと心臓が跳ねた。
つつ、と頬を指先でなでてそのまま私の顔を上へ向かせる。
目を伏せながら近づいてくる彼をどうしてか私は拒むことをしないで、そのまま…


「ッキャプテン!!!!海軍が来ちまった!!!」


バンッと勢いよく開かれたドアに、はっと我に戻って後ろに飛び跳ねる。
動揺をひた隠しながら、「海に潜れ」と、短く指示を出す目の前の男を俯きがちに見上げると、ばちりと目が合ってしまい、さっとそらす。

今、今…私、この男のキスを受け入れようとしてしまった。

ぼぼぼっと顔が熱くなる。
ぐるぐると余計な羞恥心が頭を駆け回っていると、ヒールの音が近づいてきて、今度は強引に顔を上げられる。
痛い、と彼に怒鳴る前に、柔らかく唇は重ねられていた。










視線を交わらせて










金色の瞳が、私を見つめていた


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