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  15


左肩を押さえ、意識が朦朧しながらも、今日も大きな袋を持って甲板の先頭に立っているローの姿を私の目はどうにか捉えた。

「出やがったな…トラファルガー・ロー…生意気な超新星がァア…」
「っぐァう!」

左腕を思い切り引かれ立たされると、首をガッとつかまれる。
こいつから、ローへの恨みをひしひしと感じる。
ローは私の方に目線をやると、その表情が更に怒りに満ちたことが分かった。
逃げ出したい。
ローに迷惑はかけたくない。
それでも力が入らない体に悔しくて唇をかみしめる。

部下たちを一通り倒したみんなはローの方へ近づき、指示を仰ぐように声をかけた。

「っキャプテンッ…!」
「…下がってろ。あとは俺がやる」
「ッ…アイアイ…すみません…ッ」

ペンギンたちが頭を下げて一歩下がると、ローは袋を足元に落とし、一歩一歩こちらへ歩み寄ってくる。

「トラファルガァ…テメェの大切なペットはここだ…返してほしけりゃ、」
「ROOM」

敵が話し終わるより前に、サークルで私たちが囲われる。
恐怖からか、憤怒からか、びくりと肩を揺らすと、私の首をつかむ力が強くなっていきどんどんと息ができなくなっていく。

「…オイ、ニナ…お前も俺のクルーなら、できることをしてみろ」
「ッ…ロ、ー…」

それは、誰にでもない、私へ向けられた言葉。

私は隣で怒鳴る声に耳を貸すことなく、ぼんやりとローの姿を目に写すと、にやり笑う彼がそこにいて、私のことを待っている。


ひどいひと、



どうにか動く右手で髪留めを外し、敵の前に放り投げた。
物が目に入り、私の奇行に気づいた敵はふざけるなとさらに首を絞めてくる。
苦しい、けど、もう…だいじょうぶ


「シャンブルズッ」


私の髪留めと場所を入れ替わって目の前に現れたローに驚き、銃を構えなおすのではもう遅い。

「お前は、俺を怒らせた…」
「っひィ…!」

「インジェクション、ショット!!!」

「ぎゃああァア!!!!」

大きな叫び声とともに首を絞められていた苦しみから解放され、私はその場に崩れ落ちる。
敵を吹き飛ばしたローの横顔にひどく安心して、私は意識を手放した。










ペンを走らせる音が届き、目をふと目を開ける。開窓が開いているのか、心地いい風が私の頬を撫でた。

「…目、覚めたか。」
「…ロー」

上半身を痛みに耐えながら起こすと、ローはペンを机に置いてこちらに歩み寄る。私の横たわるベッドに腰を下ろすと、ギシッとスプリングが鳴り、ベッドが沈んだ。
ふわりと髪を梳く優しい手つきにほっとする。
ただ、うまくローの顔を見ることができなかった。

「…お前の左肩に打ち込まれたのがコイツだ。海楼石の弾丸。…最近、能力者に対抗するためか、こういうめんどくせェ道具を使うやつらが増えてきている。」

袋に入ったそれを見せてくれる。
左肩にまかれた包帯。埋め込まれていた弾丸をローがとってくれたんだろう。
右手でそこをなでると、鈍い痛みが走った。

海楼石の存在はもちろん知っていた。
けど、スマイルである自分へは無力かもしれないという自分の力への過信と、情報不足が招いた怪我。
力不足をひしひしと感じずにはいられない。

「ロー、わたし…ッ」

謝らなければと顔をあげると、そこには怒りで満ちた顔をしたローがいて。
私の髪や頬をなでるのはとてもやさしいのに、正反対との言えるその表情にビクリと肩が跳ねる。

「ぁ…わ、たし」

呆れてしまったのだろうか
わたしの弱さにもう嫌気がさしてしまったのか
そんな恐怖がぐるぐると私の脳内をさまよう。
この船から降りろと言われるのではないかと思うと、目に涙が溜まっていく。

ずっと一人で生きてきた
一人になっても大丈夫だと思っていた

でも今、私は恐れている。
一人になることを、
この船から降ろされるかもしれないことを。
いつの間に、この船で過ごすことが
この人のそばにいることが、
これほどまでにしあわせになっていたのか、思い知らされる

「ッロ…」
「…バカヤロウが…」

眉間に皺が深く刻まれたままなのに、優しい手つきで私の目に溜まった涙をぬぐってくれる。そして、俺が何に怒っているか分かるかと問いてきた。

「っそれは、わたしが…弱くて、…ッ」


怪我をしていない右肩をトンと押されてベッドに押し倒される。
バフンと枕に落ちる衝撃に目を閉じれば、唇に感じる温かい感触。
すぐに離れて、私を見下ろすローの顔はやはり怒っていて

「そんなことじゃねェ…」

ぐっと私の右肩を押さえつける。

「俺はお前を弱いと思ったことは、一度たりともねェ…。今回だってそうだ」

そう話す黄色く輝くローの瞳を見つめていると、そこには怒りだけではなく、恐怖が見え隠れしていることに気が付いた。



「だが…ッ俺はもう!俺がいないところで…俺が見えないところで…!」

…大切な何かを失うのは…ごめんだ



絞り出すような声でそう叫ぶローが今にも泣きそうな瞳をしていて、心臓がぎゅっと締め付けられる。
私は何度も謝りながら彼の頭を抱き寄せた。
包帯に血が滲むのが分かる。けど、左肩の痛みなんてとうに忘れた。
こんな痛みよりももっともっと痛い思いをさせてしまったのだ。


「…好きだ、ニナ」


私の耳に届いた言葉に、肩を震わせた。
うそ、と抱きしめる力が弱まった間に、ローはぐっと枕を押して体を起こし、私をまっすぐな瞳でもう一度見下ろした。

「っ……」
「お前はもう、…俺の大切な女だ…」

私は、
…そうか、私は
仲間として、この人のそばにいれればいいと、思ってた。
でも、そうじゃない。

思えばきっと、最初から惹かれていたんだ
この月のように輝く瞳に、
優しい声に、仕草に、笑顔に、心にもつものに、
頼もしさに




「もう二度と、俺のいないところで傷つかないと誓え!!」





こんなにも、好きになっていたんだ


「ッ…、…誓うっ…ッ!」


そう答えると同時に、深く深く合わされる唇。
荒々しく、私がいることを確かめるように絡められる舌、優しく頭を支える手、すべてが愛おしい。
何度も何度も角度を変えながら重ねられる行為に、身を委ねるようにローの首に両手を回すと、一度離されるそれ。

「ッ煽ってんのか…」
「ん、…私も、ローが好き、だから…っ」

そう微笑むと、目を見開いた後に一度舌打ちをして


「…もう、…止まる気はねェぞ」


そう低い声で囁いて、もう一度唇を重ねた。







いまいちどの恋







何回恋をしたことか


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