13
「あとは甲板で終わりっと、」
途中からシャチと別行動を取って、とにかく早く掃除を終わらせる作戦にでた。
たまたま甲板は私が担当になったけど、…骨が折れそうだ。
基本潜水艦の分、甲板は海水の乾いた汚れがつきやすい場所。
その割に、宴は基本ここで開かれるから、綺麗にしておきたいのは私だけではないはず。
せっせかとモップがけを始めていたときだった。
ドサッと何かが置かれる音がしてパッと顔をあげると、ローが足元に袋を置いて立っていた。
「ロー!おかえ、ッ大丈夫!?」
近寄って見て初めて気づいた異変。
顔には傷が多く付いていて、所々破けた服からは血が赤く滲んでいる。
思わず体を支えると、体の重さが寄りかかってきた。
「…かすり傷だ。問題ない」
「その割には……能力、使いすぎよ」
「…あァ…少しばかり、つかれ、た」
「っちょ、ロー!!」
細く、疲れきった目がふ、と閉じられる。
ガクンと私に伸し掛る重さに耐えきれず、座り込んで、ローの顔色を伺う。
いつも白いけど、今日は一段と青く見えた。
「ニナ〜こっち終わ、っキャプテンッ!!!」
私たちに気づいて焦った声を大きく上げて近寄ってきたシャチにローを託す。
私は一足先にベポとペンギンに声を掛けてから、ローの部屋へ足を運んだ。
久しぶりに入ったそこには、目を疑うものが転がっていた。
「ッ………し、ん…ぞう?」
透明な四角いゲル状のものに包まれながらも、どくどくと脈を打つそれは、確かに誰しもが左胸にもつそれで。
しかしそれを気にする間もなく、ローを抱えたシャチがやってきたので、ものが転がっていたオペ室との境になる扉を閉めた。
心配そうに何回もキャプテンと呼ぶベポと、慣れた手つきで傷の手当をするペンギンとシャチ。
私はそれを見ていることしかできないし、先程見たものにどうやっても意識がいってしまう自分が、なんとも情けないと思った。
「キャプテン〜!!心配したよぉ〜!!」
「あァ、悪かった」
オイオイと泣きながら抱きつくベポを柔らかく微笑みながら頭を撫でる姿が、余りにいつも通りだ。
ローが目覚めたのはら、甲板で気を失ってから4時間ほどたったころだった。
「お前らも、悪いことしたな」
「ま、キャプテンの無茶は今に始まったことじゃねェから。」
「でも、心臓に悪いから、もう勘弁してくださいよ。」
心臓、というワードにどくりと記憶が蘇る。
ちらっとオペ室の方に目線を送る。
アレは、なんなのか。
でもローのことだ、心臓の模型の1つや2つ…
…いや、そう思える数ではなかった
「…ニナ?」
ペンギンの声にはっとすると、お前も体調悪いのか?と心配をされた。大丈夫よ、と返事をして、ニコリと笑う。
「じゃあ、あとはキャプテン。寝ること。」
「…………あァ」
「間がありましたが。」
「……………努力する」
返事を言い淀んだ様子だったが、ペンギンの圧に折れたロー。それに小さくため息をつきながらも、安心した様子でペンギンたちは部屋を出ていった。
私もそれに続くつもりだったが、腕をやんわり掴まれる。
「…ニナ、…添い寝」
「…………ロー。」
「ダメか。何もしない…というか、今はできねェ。あと、お前がそばにいると…眠れる。…ニナ」
……私も、とことん甘いと思う。
出会って半年、ここまで弱った彼を見るのは初めてで。
だからか、彼のわがままに付き合うことにした。
ただ、その前に
「…これ、このままでいいの?」
今日もローが持ち帰ってきた袋を指差す。
指が少し震えてしまう。
置いといてくれていい、とは言うけれど
「ね、ロー。これって」
「まだ、……ひみつだ」
ローは力なく微笑みながら、そう答えた。
きっと、私がこの中身が何か知ってしまったことも気づいているのかもしれない。
それでも隠すというのなら、
私は、ひみつが打ち明けられるのを待つだけだ。
早く隣に来いと言うように、トントンとベッドを叩くので、そこに転がる。
「…ひみつの多い船長さんね」
「…フ……違いねェ」
……もうすぐ、わかる
そう言うと、私の頭を自分の胸板まで引き寄せて、抱きしめる。
前のような疚しさは感じられない。
すぐに、頭の上からすうと寝息が聞こえ始めたことに、私もひどく安心して、額を彼の胸板に預けながら目を閉じた。
可愛くてかわいそうな人せめて今はゆっくりと
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