鉛色の空の下。私はいつも通り一人で家までの道を歩いていた。スクール鞄は右肩に、左手には大嫌いな髪と同じ色の赤い傘を持って。
「やばっ、降ってきたってばね!」
雨はだんだんと勢いを増していく。傘に打ち付ける雨音が、少しだけ恐ろしい。
「……ニャー、ニャーニャー」
「!」
五月蝿い雨音に混じり鳴き声が確かに聞こえた。足を止め辺りを見渡す。
「………捨てね、こ」
見つけたのは濡れてしわしわになったダンボール箱の中で震える猫だった。泥なのかはたまた怪我なのか猫は赤茶色に汚れているように見えたその猫は雨に濡れてふるふるとその小さな身体を震わせていた。そっと抱き上げるとかなり冷えてしまっているが生きている証しの体温が私の手に伝わる。
「怪我…はないみたいね、」
猫を抱き上げて調べてみたが幸い怪我はなさそうだ。だけど、何日も食べていないみたいで猫はガリガリで抱き上げる私の手も壊れてしまいそうな猫を抱き上げるのに震えた。
「ごめんね…これ、食べれる?」
目の前に明日の朝ごはん用にと買ったパンを千切って置いてみる。猫は匂いは嗅ぐけど食べてくれない。もしかしたら、まだ小さいその猫はもしかしたら子猫でミルクとか柔らかいものしか食べれないのかもしれない。
「…………」
パンを口に含んで軟らかくして猫の口元にもっていく。
「あ!」
今度は恐る恐るだけど確実に食べてくれた。
「よかった、」
でも、また困った。私はアパート暮らし。私の住むアパートは動物禁止でオマケに大家さんは酷い猫アレルギーらしくもしこの子を連れて帰ってしまったら直ぐにバレてしまうだろう。
「…………」
よほどお腹が空いていたんだろう。小さな口で一生懸命パンにかぶり付いている姿が愛らしい。
「……ごめん、ね。また、私があなたをまた辛くしちゃったんだ、」
一度捨てられ私と出会った小さな猫はまた辛い思いをして暫く生きていかなければならない。救ってあげれない私が手を差しのべたばかりに…
「………ごめん」
赤い傘だけど、たぶん目立つから君を見つけてくれる人がいるかもしれない。
私は傘を猫の屋根にして雨の中を駆け出した。
◇◇◇
「っ、…グス、」
私はあの猫にとって一番酷いことをしたかもしれない。
「あれ、うずまきさん?」
振り向かない。泣いていることがバレるし、私の名前を知っている人なんてろくな人いないもん。
「あれ?無視?……俺は波風ミナト」
「ミナト……?」
ミナト…聞いたことある。なんでも学園で一番賢くて、一番運動神経良くて、一番モテてる人だって。
「!、もしかして…泣いて、る?」
「っ!」
気がつけば波風ミナトは私の目の前に、
「あ、その猫」
「あぁ、俺が飼うんだ」
「………」
「こいつさ、幸せだよね?」
「え、」
「だってさ、この雨の中で誰かに足を止めてもらえて、パンをもらえて、こんな素敵な傘をもらえてさ!」
「!」
「はい、」
赤い傘をスッと差し出してきた波風ミナト。知って、たの?
「あ、傘要らないね。雨止んできた」
「あ、うん……」
「あ、そうだ!クシナって呼んでいい?俺のことは、ミナトって呼んでね?」
「うん、いいけど…」
「クシナと話してみたかったんだ!」
「、!」
彼の目を見たのは初めてだった。彼の瞳は青空のような青。
泣き虫な私の心に青空という青の傘を差し出してくれたのは彼、ミナトだったの。