03 GWの時間
私が中学生になってから数週間が経っていた。生活にはなかなかなれないけど、昔を思い出しながらのんびりと学生生活を満喫しようと努力していた。
そんな中、社会人には無関係なGWがやってきた。数日前にはビッチ先生という暗殺者が現れたが、今ではしっかりとE組の先生である。その美貌と高いプライドのある女性であったが、実はなかなか子どもっぽくて可愛らしい一面もありそうな先生だった。
普通の学生のGWといえば、友人と遊んだり家族旅行があるんだろうけど私は宿題以外に予定がない。その宿題も早めに終わらせようと昨夜頑張ったお陰でもう済んでしまった。殺せんせーは生徒一人一人問題が違う。驚いたことに毎回の小テストも手書きで生徒の苦手強化や得意教科に合わせてだから、私も少しだけ成績が上がったように思う。少しだけね…。
いい天気のGWの昼下がり
予定はなし
すごく空しい
◇◇◇
公園に来てみた。この世界に来てからゆっくりと町を見ていなかったなぁと思って散歩がてら来てみたのはいいけど流石にGW。子ども連れの家族でいっぱいだった。木陰になっているベンチを見つけて腰かける。
容姿は中学生になったけど中身は大人。毎日勉強するのって仕事するのとはまた違う疲れを私に与える。肩は凝るけど、次の日には治っているのは…有難い。
「あっれー?なまえちゃん?」
「カルマ君…」
呼ばれて振り向けば今の同級生のカルマ君。彼も予定がないのだろうか?
「なまえちゃんも予定なかったりするの?」
ごく自然に私の隣に座るカルマ君。興味あるのかないのか、質問しながら視線は公園の噴水で遊ぶ子どもたちに向けていた。私に興味はないね。この様子だと、
「ま、ね。“も”ってことはカルマ君も?」
「そ、で…家にいても暇だし散歩がてら釣りでもしようかなって思っていたらなまえちゃんが公園にいるの見えたってわけ」
「…釣り?」
「そ、」
釣りというには釣り道具は見られないが…何となく深く追及するのは止しておくことにした。
公園に男女が2人これが同い年の異性ならカップルに見られるのかな?とか妄想しているところだけど…今の私には同い年か。
「どーしたの?面白い顔して」
「……面白いって…まぁ、いいけど。じゃあ、私はそろそろ…行くね」
「じゃ、俺も」
「え!?」
なんで?カルマ君ついてくるの???
◇◇◇
あれからカルマ君私の町探検という名の散歩についてきています。しかも、私たちの間に会話ないし。正直気まずい。というか、何したいのかな?カルマ君!
「ねー俺さ思ってたんだけど」
いきなり話し始めたカルマ君。なんだろう、もう帰りたい。
「なまえちゃんって3年の4月に、しかも、変な時期に編入してきたじゃん?」
「…」
「あの時期だしかなりの確率でそっち(暗殺者)の関係かと思っていたけど、それは違うみたいだしうちの学校に編入出来るとは思えない学力だし…なまえちゃんって何者なの?」
「……」
カルマ君は頭の回転がすごく速い。普通の人が流してしまうような些細なことでも彼は気になってしまうのだろう。中学生だけど、暗殺者として。
「別に、親のコネで入ったのはいいけど…やっぱり学力足りなくてE組になっちゃたってだけ」
「ふーん。そうは思えないけど。親のコネって?親の仕事なにしてんの?」
「別に、っ…あんまり知らないというか会わないというか」
「話逸らしたくて仕方ないって感じだね。親に会わないの?俺の親もよく旅行いくけどさ…なまえちゃんの場合違うよね?」
頭の回転の速い中学生男子って……しつこい。まぁ、カルマ君の場合は探究心なのかもしれないけど今の私にとって非常に厄介な存在になっている。私の存在というか、存在している経過が機密事項だから。誰にも言ってはいけない。言えない。
「…えっと、それは、」
「……嘘」
「え、」
「別に困らしたかったわけじゃないよ…知りたいのは知りたいけど。話せないのなら聞かない」
「カルマ君…」
「ただ、」
「?」
「……そんな顔するってことは辛いんだよね?」
辛い……?
気が付けば私の頬には涙が流れていた。
「ごめん、泣かすつもりなんかなかった」
「あ、ごめ…あれ、なんで?」
久しぶりの涙。
あぁ…そっか。
「カルマ君、」
「ん、」
「私、辛かったみたい」
人は環境の変化に適応していく生き物
笑ったり、泣いたり、怒ったりしながら
そんな、人に与えられた感情を
人は大人になるにつれて忘れてしまう
「いつか辛くなって耐えられなくなったら話さなくてもいいから言ってくれたら行くよ」
カルマ君のその言葉は私の胸にすーっと届いた。
「うん、ありがとう」