21 湿気の時間



雨の季節。月は6月になり今日から梅雨に入っていた。
E組のボロ校舎ではじめじめの湿度の中、今日も授業が行われるが……


「殺せんせー 33%ほど巨大化した頭部についてご説明を」


よく質問してくれた。化学の授業どころではなかったE組のみんなが律に感謝したことだろう。そのE組の教壇に立つ殺せんせーの頭がなんか大きいのだ。異常に大きい。もともとアンバランスな生物の殺せんせーだが、頭が大きくなったことで、ますます……


「水分を吸ってふやけました。湿度が高いので。雨粒は全部避けて登校したんですが、湿気ばかりはどうにもなりません」


そう言いながら頭を雑巾のようにバケツの上で絞る殺せんせー。その頭からは絞られた大量の水分がバケツを満たしていく。そして、教室には至る所に並々の雨水の入ったバケツが置かれていた。


「……ま、E組のボロ校舎じゃ仕方ねーな」

「エアコンでベスト湿度の本校舎が羨ましーわ」


うんうんと頷くみんな。そんな中、倉橋ちゃんが気づいた。


「先生帽子どうしたの?ちょっと浮いてるよ」

「よくぞ聞いてくれました。先生ついに生えて来たんです  髪が」

「キノコだよ!!」


殺せんせーの帽子の中に生えていたのはキノコ。しかも、けっこう立派なキノコ。あろうことか、殺せんせーはそれをもぐもぐと食べ始めてしまった……


「湿気にも恩恵があるもんですねぇ。暗くならずに明るくじめじめ過ごしましょう」

「……なんか、共食い?」



◇◇◇



放課後。帰り支度を早々に済ませたカルマが私の元に来てくれる。が、今日は全く授業に集中出来なかったためこのままでは帰れない。


「カルマ君、ごめん…先帰ってて」

「別にいいけど、どうしたの?」

「さっきの化学の授業殺せんせーの頭が気になって授業どころじゃなくて…」

「あーね。わかった、じゃあねー」

「うん、また明日」


こうして私は先にカルマ君に帰ってもらい職員室に向かった。
廊下を歩いていた時に着信。画面を見れば渚君からだった。私は廊下の端により電話に出る。


「はい。どーしたの?」

「あ、なまえちゃん 実は今から―――」

「んー私パス。人の色恋にはちゃちゃを入れない主義なんだ。まー本校舎の生徒には借りがあるから応援はしてる!」

「そっか、わかったよ。じゃあ、また、明日」

「明日」


電話によると前原君の彼女…元カノ(C組)とその新カノに理不尽な屈辱を受けたらしい。屈辱には屈辱を…ということらしい。メンバーを聞けばけっこうな人数もいてるみたいだし今回は任せておこう。それより今は化学、化学……。



◇◇◇



結局、職員室には殺せんせーはいなかった。大方、前原君の仕返しの方へ行ってしまったんだろう。あの先生、世話好きというか生徒のゴシップに目がないから。


「あれ、カルマ君?」

「あー補習終わったの?」


帰宅途中。先に帰っている筈のカルマ君が小さな倉庫で雨宿りをしていた。手には鞄しか持っておらず雨具らしいものは見当たらない。


「ううん、殺せんせーいなくて……止みそうにないね、雨 入ってく?」

「いいの?朝降ってなかったからさー、ありがとう」

「言ってくれたらよかったのに」


「お邪魔します」と言いながら私の傘に入るカルマ君。カルマ君の肩や背中はけっこう濡れている。雨の中ここまで走ってきたのだろうか。自然と傘を持ってくれるカルマ君。カルマ君は私に傘を多く指してくれるそのせいでカルマ君の肩はまた濡れる。


「あ、ありがとう でも…」

「…俺の方が背、高いから頭ぶつかるから」

「はいはい」


「カルマ濡れている」という言葉は言わせて貰えなかった。持つ手をぐいっとカルマ君に押しやるが押し戻されてしまい余計に濡れるカルマ君に私はカルマ君にくっつくことしか出来なかった。



◇◇◇



暫く歩いていると、びしょ濡れの本校舎の生徒2人と、それを距離を保ち見ているE組のみんなと目立つ殺せんせー…の背後に鬼の形相の烏間先生。


「なんかしでかしたんだね」

「みたいだね〜」



(今日もE組は平和です)