19 自立思考固定砲台(律)の時間



転校生として3年E組にきた自立思考固定砲台さんは開発者に逆らい“反抗期”を迎えE組に馴染み律として仲良く協調性を持って暗殺に取り組んでいた。そんないつもの放課後いつも通りカルマ君と私は一緒に下校する。


「でね、殺せんせーに対先生BB弾入りのシュークリームあげたんだけどダメだった。美味しく食べられたよ…」

「あーね、鼻いいから」


「てか、内部破壊ってなまえちゃん見かけによらず怖いねー」なんて言われながら、今日も他愛ないカルマ君との下校。殺せんせー暗殺の反省会をしていると震えるポケット。ポケットに入っている携帯を見ればそこには「おじゃましてます」の立て看板を持つ律がいた。


「何してんの律」

「お邪魔しています。全員の携帯に私の端末をダウンロードしてみました。“モバイル律”とお呼び下さい」


けっこう律も何でもアリらしい。プライバシー侵害とか思ったけど次の律の言葉でその思いは感謝に変わる。


「なまえさん。教室に忘れ物があるようです。私が予測するには本日の数学の課題であると思いますが、」

「あ、」


慌てて鞄の中を確認するが律の言う通り今日の数学の課題を入れたはずのファイルが見当たらない。課題を忘れたとなると月曜日の殺せんせーの泣き顔が容易に想像できる。……仕方ないので山道を登り課題を取りに行くことにしよう。


「はぁ、カルマ君ごめんね。忘れ物取ってくるよ 先に帰ってて」

「うっわー なまえちゃん真面目だね」

「……カルマさん?私は元々真面目だったの。カルマ君に出逢うまではね」


「なにそれ」と、カルマ君には案の定笑われてしまった。そして、やっぱり知らなかったフリして帰りたいという気持ちを叱咤して私は学校への道を行く。



◇◇◇



「ふー…、律ありがとう」

「いえ、お役に立てて光栄です」


にっこりとほほ笑む彼女は初め来た頃とはもはや別人である。成長している彼女に感心しながら私は自分は成長しないなぁと自嘲気味に笑う。


「どうかされましたかなまえさん?」

「律はすごいなぁってね、思って」


すると、パネル上の律は目を閉じて一呼吸(?)する。


「私は少しもすごくありません。殺せんせーに教わった“協調能力”……私は未だに理解に苦しんでいます」

「律、」

「人の気持ちはすごく難しいです。その気持ちを理解しない限り人の常識を理解できないと私は考えます。そして、その気持ちや常識というのは個々により違うのです……決まった答えがあるものに関しては私はコンピューター計算により正しい答えを導くことが出来ます。しかし、人の気持ちなどは計算しても答えが出ないのです」


思考能力(AI)を持ちAIも構造も自らの手で進化していく律。しかし、AIといえど機械で計算上成り立っている。計算以上のものの理解は難しいらしい。でも…


「律。私たちも同じだよ。私たちも人の気持ちが理解できなくて理解したいから一緒にいる。常識が違うから衝突してしまうこともあるけれど、コミュニケーションという能力でお互いを知ろうとしている。今、律が私たちとしていることと全く一緒だよ」

「なまえさん!ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします」

「もちろん!こちらこそよろしくね」


律に見送ってもらいながら私は今度こそ課題のプリントを鞄に詰めて下校する。



◇◇◇



早く帰って課題のプリントに取り組みはずだった。はずだったのにこの状況はどういうことだろうか。
人気のない本校舎の近く。私の前には本校舎の意地の悪い生徒たちと椚ヶ丘中の制服ではない他校の如何にも不良という風貌の人たち。この状況……デジャブを感じてしまう。

 
「俺等は太陽なんだよ!名門椚ヶ丘中という。で、お前らE組は暗雲ってわけ!わかるか?俺等は守らなくちゃいけないんだよ。太陽を…この学校の光を守るんだ」

「へへへ、本当にこの子好きにしていいのか?」


この学校の光を守るという名目に駆られて街の不良と手を組みE組を要は潰そうということか。群れることでしか力を出せないなんてどこの不良も嫌になる。


「さてさて、どう遊ぶかなー?」


今日は1人。
もうダメだ……、

ニタニタ気味の悪い笑みを浮かべた不良たちが私に近づく――――