君だけにしか分からない言葉がある

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「おい」

「どうぞ」


ここは食堂。珍しく休憩時間が重なった私と沖田さんはお昼を一緒に取っていた。沖田さんに醤油を手渡す。


「いやいや、今のでみょうじ分かったのか?」

「あはは、まるで熟年夫婦の様だな」

「「…何言ってですか/ィ」」


今まで沖田さんと一緒に仕事をしていたという近藤さん、土方さんも一緒の机で食べている。沖田さんとは向かう形で私の隣には土方さんがいてる。土方さんが言うのは沖田さんの「おい」だけで私が醤油を手渡したことを言っているらしい。
私も、何となくなのだから“何で”と問われると返答に困ったりする。


「夫婦はさておき何でですかね」

「そうでさァ。俺がこいつと夫婦なんてありえねェ」

「わ、私だって沖田さんと夫婦なんて嫌ですよ」

「あ?」


売り言葉に買い言葉。私も私だけれど沖田さんの言い方にカチンときてしまったカチンと、


「みょうじみてーな馬鹿な女を嫁に貰おうなんて変わり者はそうそういやせんよ」

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか」

「ちょ、お前ら…」


土方さんの制止は弱く私たちの言い合いは熱を増していく。昼時を過ぎた食堂は私たちしか居らず妙に声が響く。そんなことお構いなしに沖田さんに反論していく。いつも言われっぱなし、やられっぱなしは私のプライドが許さないのだ。


「ったく、ギャーギャー煩いのが馬鹿なんでさァ」

「沖田さんだって煩いですよ」

「あー、耳がキンキンすらァ」


聞こえないというように明後日の方向を見る沖田さん。埒が明かないと立ち会がった時。


「近藤さん、俺ァ先に行きやす」

「お、おぉ」

「おい、総悟」

「土方さんもマヨネーズばっか吸ってると脳みそマヨネーズになりやすぜェ」


「なるかぁぁああ!」と言う土方さんの叫びを背に食器を下げる沖田さん。言い合いは結局、沖田さんが逃げてしまったためもやもやしたままの不完全燃焼というやつである。


「なまえちゃんすまねーな。総悟の奴は昔っから天邪鬼なとこがあってな」

「知ってます。知ってますけど、」

「総悟の奴がこうやって同世代と言い合えている。それが俺は堪らなく嬉しいんだ。そりゃ、なまえちゃんには嫌な思いさせちまってるからこのままじゃダメなんだがな」

「近藤さん」

「近藤さん、あれは総悟の奴が好き勝手してるだけだ」

「上ばかりの中で育ったからな思いやりや加減といった感情(もん)がまだ育ってねーんだろうな」


困ったという笑いで近藤さんは食べ終わり席を立つ。


「これからも総悟の奴見てやってくれねーかなまえちゃん」


二カッと屈託のない笑顔で近藤さんに言われたら断る理由はない。だって、私だって近藤さんが大切で近藤さんがいるから真選組にいているから。それに、近藤さんは私の命の恩人であるから。


「もう悪友ですよ」


私の言葉に満足したように安心した笑みを浮かべる近藤さん。本当にお人好しなひとである。


「総悟の奴は一回ぐれー痛め目に合わねーとわかんねーよ」


土方さんは当り前というように悪態つくと食後の一服を始める。そして、食器を近藤さんの分も下げている。二人のいなくなった一人の食堂内。


「悪友か、」


沖田さんとは隊長と女中という身分も違うが、私が真選組でお世話になってからずっと一緒にいた。土方さんへの悪戯を手伝わされたり、一緒に怒られたり、サボりを強要されたり碌なことはない。でも、私が困ってたら助けてくれるのは沖田さんだし、私が辛いときに一番に気づくのも沖田さんである。


「口が悪いのと、Sが治ればいいのにね」


まぁ、それが無くなってしまえば“沖田総悟”ではなくなってしまうと思うけど

◇◇◇

「総悟、何でなまえちゃんにああいう言い方するんだ」


珍しく近藤さんが俺とみょうじのことに首を突っ込んでくる。“何で”って言われても返答に困る。俺とみょうじは出逢った時からそうだしこれからもこうだろう。お互い普通でいれるっていうのが一番の理由だと俺は勝手に思っている。それに俺が俺のもんにどうしよーと勝手だ。けど、俺のもんが勝手に何かされるのは気にくわねェ。ただそれだけでィ。


「何でもねェよ近藤さん。みょうじはしいていうなら悪友でさァ」

「あははは」

「?」

「いやな、さっきなまえちゃんも同じことを言っていたよ。“悪友ですよ”ってな」


ほらな、俺とみょうじは似てるんでィ。


◇◇◇

「痛い!何するんですか沖田さん」

「うるせェ。ったく、本当に可愛げねェ」

「何ですか?!いきなり」


頭部に沖田さんに思いっきり手刀を受ける。加減はしてくれたんだろうけど涙が滲むくらい痛かった。しかも脈絡のない話に可愛くないと急に言われる筋合いもない。


「みょうじなんかどうでもいいって意味でィ」

「…私はこれからも出逢った時からそうだったみたいに沖田さんとは一緒にいてると勝手に思ってたんですけど」

「!」

「いないんですか?」

「…お願いしますって言えたらいてやりまさァ」


(なんですか!それ)
(何でィ、俺と一緒にいたいんじゃねェのかィ?)

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