何となくとか、勘は大切にするもの
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屯所の床掃除をするために私は水のいっぱい入ったバケツと用具一式を抱えていた。遠くからは土方さんの怒鳴り声が聞こえるのでまた、沖田さんがサボりか悪戯をしたんだと思う。
屯所の廊下だけでもかなりの掃除量である。防犯対策として屯所内は入り組んだ造りになっており無駄に長い廊下、短い廊下、更には行き止まりの廊下なんかもある。
廊下の端にバケツを置き雑巾を絞り磨いていく。この作業は地味に腰が痛くなり疲れる。
「あ、沖田さん」
「お、精がでやすねェ」
「沖田さんが精出さなすぎるんですよ」
笑っていると近づいてくる土方さんの声。私は慌てて周囲を見渡すがこの廊下は障害物がなく見通しが良すぎるくらいいい。それに前みたいに大きなシーツとかもないし、部屋もない。
「ど、どうしよ…うっわ!」
バッシャンッ!!!
「うわーこれは…やりそうでやらないベタでさァ」
私は慌てて足元に置いていたバケツに躓きバケツの水を全身に被ってしまった。頭上で引いている沖田さん。沖田さんは水が宙を舞う間に安全圏に避難し水は一滴も被っていない。自分でした事態に泣きそうになりながらため息をつく。
「水浴びにはちょっと寒いと思いやすがねェ」
「…私も思います。というか、寒いです」
「だろうねィ」と、言いながら私に合わせて屈む沖田さんは私に隊服の上着をかける。びっくりして沖田さんを見るとちょっとだけなんとなく顔が赤いような、というか目を合わせてくれない。
「沖田さん?」
「上、着なせェ」
そこで初めて自身の状態を確認してみると、掃除のたまにと薄い着物だったため下着が少しだけ透けていた。ぎゅっと沖田さんの貸してくれた隊服を前で握りしめる。
「///す、すみません。お目汚しを」
「しょーがねェからタオル持ってきてやりまさァ」
と、脱衣所に足を向けた沖田さんが振り返る。疑問に思い「沖田さん?」と声をかけるのと、沖田さんに担がれるのは同時だった。そのまま、沖田さんは私を担いだまま軒下に移動する。
「お、お、お、沖田さん?!」
「“お”は一個でさァ」
「じゃなくて、近いです」
そう、近いのだ。軒下狭いし。すると、「静かにしなせェ」と、口も塞がれてしまう。
「土方のヤローに見つかっちまうだろィ」
息を潜めながら真剣な面持ちの沖田さん。
私は土方さんに見つかっても困らないんだけどとは思ったけど何となく静かにしといた。暫くすると、ズンズンと怒った土方さんの足音が頭の上で響く。ドキドキしながら私まで息を潜めてしまう。
「そんなに握りしめると皺になるんですがねェ」
「え、あ…あの、ごめんなさい」
「まァーいですが。行きやしたかね?」
しかし、「出やすよ?」という沖田さんの声に動かない身体。
「あの、沖田さん」
「なんでィ」
「吃驚したのと急に動いて腰ぬけました」
「っぷ、ダセェ」と、沖田さんが笑うので私は恥ずかしくなってどさくさに紛れて沖田さんの胸に顔を埋めてみた。上から焦ったような沖田さんの声がするようだけど無視しておいた。
(あいつ等あんなところで何してんだ?)
(でも、楽しそうですよ?)
(で、山崎テメェは何している)
(え、(ミントン隠す))
(山崎ぃぃぃいい!!!)