人に当たっても何も解決しない

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早朝、私は呼ばれ土方さんの部屋に訪れていた。


「みょうじです」


「入れ」と、土方さんの言葉に従って部屋に入る。煙草が充満する土方さんの部屋は実は苦手である。以前に換気をした方が良いと伝えると「書類が風で飛ぶだろう」と機嫌悪く返事が返って来たので土方さんの部屋の換気は諦めている。


「朝の忙しい時間にすまねぇな。ちと、総悟の奴を起こしてやってくれ」

「あの、私、沖田さんを起こしにいって只で起きて頂いたこと一度もないんですが」

「それでも、今のところなまえが起こしに行った時が比較的総悟の奴が起きるんだ。今日は昼前に大事な護衛任務がある。すまねーが頼んだ」


「分かりました」と返事するしかなく土方さんの部屋を後にする。沖田さんの寝起きの悪さは真選組一である。もうそれは屯所内の全ての人のお墨付きであるほどに。以前、起こしに行ったときは殴られそうになり、その前が蹴られて、その前が寝ぼけて抱き着かれた。でも、私はまだましな様で。山崎さんは刀を突きつけられたり、土方さんはバズーカをぶっ放されたりしたらしい。…あれ?いつもの沖田さんっぽい?

なんて、考えているうちに沖田さんの部屋についてしまった。そぉーっと襖を開けて隙間から中の様子をみると布団にしっかり丸まっている沖田さん。顔はアイマスクがある為見えないが寝息がするのでまだ寝ている模様。もう、8時過ぎで隊士達も稽古や女中もバタバタしだして煩いだろうによく寝ている。
一つ深呼吸をして決心を固めて、襖を勢いよく開けて中に入る。


「おはようございます。沖田さんもう起きてください」

「…ん」

「ほら、布団剥がしますよ」

「なんでィ、母ちゃん。今日は日曜日だぜィ」

「違います。平日です。というか、私たちに土日は関係ないです。因みに母ちゃんでもないです」


沖田さんの寝ぼけた言葉にしっかりと訂正を行い布団を剥がしにかかる。しかし、しっかりと布団の端を掴んでいるため布団を剥ぐことができない。仕方ないので屈み沖田さんの身体を大きく揺さぶってみる。


「じゃあ、おめェーも寝なせェ」

「えっ」


気づいた時には沖田さんに手を引かれてあっという間に布団の中に、後ろから抱きしめられている状態で、後ろからはすーすーとワザとらしい寝息が首筋にかかりこそばゆい。


「ひゃ、ちょ…こそばい、です//」

「なんでィ、首弱いんですかィ?」


沖田さんが面白いものを見つけたといわんばかりにニヤリと笑う。うん。ヤバい…


「早く起きてもらわないと私が土方さんに怒られてしまいますっ!」

「…」


途端静かになる室内。というか、空気が重たくなった。


「お、沖田さん?」

「土方さん、のためですかィ?」

「え」


「何で急に機嫌悪くなっているんですか?」なんて聞ける様子もなく私は布団からぽいっと放り出される。呆然と布団の外で座り込んでいるとむくりと起き上がりながらアイマスクを外す沖田さん。


「何してんでィ、早くでなせェ」

「あの、沖田さん?」

「安心しなせぇ、着替えて土方のとこ行きまさァ」


そのまま赤い目で見降ろされ首根っこを掴まれると部屋からも追い出される。部屋の中からは布団の畳む音も聞こえているので本当に起きた様子である。これで、土方さんに怒られずに済むと胸を撫で下ろすが沖田さんの態度が気になってしまう。
しかし、気まぐれな沖田さんのことであるあまり気にしては駄目であることは学習済みである。朝の女中の仕事は沢山あるため私も持ち場に戻る為、身なりを整え沖田さんの部屋を後にした。


◇◇◇


私は主に洗濯と掃除、食材の買い出しを担当している。人が足りないときは厨房にも入るが厨房はベテランの先輩方の持ち場となっている。
今日もたくさんの隊士達の洗濯物を大きな籠に入れて物干し竿まで運ぶ。水分の入った隊士服はとても重くまた、かさ張るため前が見えず不安定になる。女中の仕事は常に人手不足で重労働である。


「わっ!」


何かに躓き盛大にコケてしまった。籠に入っている隊士服の方が少なく多くが床に散乱してしまっている。転がった籠の横を見てみれば、


「沖田さん、何するんですか。危ないです」

「すいやせんね。でも、前を見てなかったみょうじも悪いですぜィ?」


そう冷たい目で睨みつけながら言い放った沖田さんは私の横を通り過ぎていく。


◇◇◇


昼食時。戦場となる厨房の助っ人として働いている。次々と注文していく隊士達と入れ替わりに食べ終わり食器を返却している隊士達で食堂はごった返す。私は食器を受け取り、大まかな水洗いを行っていた。


「…」


動かしていた手を止めると沖田さん。空の丼ぶりのお盆を黙って私に突き出している。


「あ、ありがとっ!」


ガっシャン!!

お盆は受け取る寸前に沖田さんによって落とされた。呆然としていると、


「わりィ、手が滑りやした」


その後、同僚の花ちゃんが割れた丼ぶりの片づけを一緒にしてくれた。それにしても、今日の沖田さんどうしたんだろう。そろそろ苛々するんですが…


◇◇◇


昼食の片づけも終わり今は先輩に頂いた休憩中。前回の休日に購入していた一日限定スペシャル団子を食べて和んでいると忍び寄る影。お皿に乗っていた団子四本のうちの一本が消えた。


「黙って取らなくても、声かけて下さればあげますよ?」

「…」

「怒らねェのかィ?」

「怒ってほしいんですか?」

「…」

「ふぅ、やっと話せましたね」

「…悪かったでさァ」


お互い多くは話さない。残りの団子をきっちり半分こした二人は和やかに話し出した。
遠くでは今日も土方さんが沖田さんを大きな声で探している。


「今日は何をしたんですか?」

「ちょっと腹がたったんで、土方さんのマヨネーズ一本一本にタバスコをぶち込んだんでさァ」

「え」

「もちもんストックも全部でさァ♪」

「…」

(明日の買い出しは大量のマヨネーズ決定ですね)

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