子ども相手は体力勝負
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「…ぅ、ぐず、ん…」
「男の子?」
夕飯の買い出しを終えて屯所に帰ってくると門の前には蹲り嗚咽混じりな様子の男の子。迷子かな?それで真選組に来たのかな?
「こんにちは、僕お名前は?」
「…ぐず、」
「…、」
◇◇◇
ということで、話せる状態でなかった男の子を連れて私は近藤さんのもとへ行くために男の子の手を引き屯所内を歩いていた。やや速足に廊下を歩く。こんなところ土方さんに見られたら何を言われるか分からない。
「おい、みょうじ」
「っ!な、な、な、な、何ですか!!!ひ、土方さん!!!」
「それは何だ」
「それ」とはこの子のこと。只でさえ常に瞳孔開きっぱなしの土方さん。こんな人に出会ったらますます泣いちゃうよ。
しかし、土方さんの視線は子どもに向けたものを私に向けている。つまりは、状況説明しろということ。そんなの私だって知りたいよ…。と、泣きたくなる気持ちを抑え土方さんに向き直る。
「実はこの子屯所前で蹲ってたんです。それで、迷子かなと思いまして近藤さんに指示を仰ごうと思いまして…、」
嘘は言っていない。本当のこと。でも、土方さんの眼圧が鋭すぎて悪いことしていないのに怒られている時のように萎縮してしまう。
「返して来い」
「え、」
「返して来い」
「な、何言っているんですか!そんな犬、猫みたいに」
土方さんから守るように男の子を背中に隠す。土方さんを私の勇気いっぱいで睨む。土方さんはやれやれという風にしゃがみ男の子の目線に合わせる。土方さん?
「おい、ガキ名前はなんだ」
「う、うわーぁぁあああんんん」
「ったく、子ども扱いなんてわかるかよ。」
「今のは土方さんが悪いでさァ」
「沖田さん」
撃沈した土方さんを突き飛ばし男の子を見下ろす沖田さん。男の子は私の着物の端を握りしめ沖田さんを黙って見上げている。
「ガキ!飴いるか?」
沖田さんから恐る恐る飴玉を受け取る男の子。意外だ沖田さんが一番子ども心を理解しているのかもしれない。沖田さんのサドスティックも子どもには例外なのかもしれない。勝手なイメージしていて沖田さんごめんなさい。
「よし、攻めを伝授してやりましょーかィ」
「ちょい待て!/ちょっと待ってください!」
「なんでィ、二人して」
ストップをかけたのは言うまでもない。男の子の未来がドス暗くなるのが目に見えたから。
ドギマギした土方さん、怪しげな笑みを浮かべた沖田さんから男の子を守り当初の予定であった近藤さんの部屋に向かった。
◇◇◇
「近藤っ肩車っ!」
「ちょ!勇大!!首折れるそれ方向がっ!!い"でっ」
流石、お人よしの近藤さん。あんなに泣いていた男の子…勇大を泣き止ませて今は遊ばれている。近藤さんの首の上で遊ぶ勇大だけどまだ大切なことは聞けないままだった。
「す、すみません近藤さん」
「なまえちゃん、人は誰もが子ども時代があるんだよ。それに賑やかでいいじゃないか」
「近藤さん」
「近藤にしてはいいこと言うじゃん」
「近藤“さん”!!」
勇大は口が悪いらしい。それに冷や冷やしながらも近藤さんは許しておりそのまま勇大の世話係りを任命されてしまった。こんなに無邪気に笑う勇大にはまだ言えないことがあるみたい。「子どもを見守るのが大人の務めだ」近藤さんは難しい表情を見せていたけど…
◇◇◇
「ねぇ、なまえ」
「ん?」
「人って何のために生まれるの?俺は生まれてよかったの?」
「勇大?」
「…なんでもねーよ!」
ねぇ、勇大。君は何をその小さな身体で抱えているの?一瞬見せた勇大の表情(かお)はとても愛しくて気が付いたら抱きしめていた。
「勇大、私もまだ生まれた意味は探し中なの。でも、勇大は生まれてよかったんだよ。だって、名前は親が子供に初めて与える愛情なんだもの。大きな勇気が君にはあるんだよ?ね?勇大」
腕の中で泣く勇大は凄く愛しくてこの小さな身体に抱えたものが少しでも軽くなるように。
◇◇◇
「沖田ー」
「なんでィ」
一日で真選組の一員になった勇大。勇大は風呂上りなのか牛乳瓶片手にバスタオルを肩に掛けていた。今日は土方のマヨネーズにからしを入れるのを忘れるくらい勇大のせいで疲れた。
「今ななまえと風呂入って来た」
「はぁ」
「なまえけっこうあるぞ」
「クソガキ」と、摘まんだところで頭に衝撃が走る。後ろを振り返ると懸命に睨んでいるみょうじ。ッチ、今日はこんなんばっかで苛々すらァ
「何してるんですか!沖田さん!勇大を離してください!」
「なんでィ、勇大の味方するんですかィ?」
「え、沖田さん?」
「なまえ助けて〜」
なまえに抱き着く勇大。勇大は泣きまねをしながら舌を出し俺を馬鹿にした。
「やってらんねー俺は寝まさァ」
◇◇◇
「あ、沖田さん。先程は怒鳴ってすみません」
「別に、ちょっとはこっちの言い分も聞いてはほしかったですけどねィ。…勇大は寝たんですかィ?」
「す、すみません。はい、疲れていたのか直ぐに寝ちゃいました」
勇大を寝かしつけて部屋に戻る途中の縁側に座り込んでいる沖田さん。長居しているらしく横にはお茶がおいてある。
「一息どうですかィ?」
よく見れば、沖田さんが使っている湯呑意外にもう一つ置いてあった。沖田さんが用意してくれたのかと想像すると自然と笑いが、
「…笑うんなら飲まなくていーですぜ」
「すみません。頂きたいです」
沖田さんの淹れたお茶は疲れた身体に直ぐに染み渡った。丁寧に淹れてくれたのが分かる。渋みの中に甘さがあるから。お茶なんか淹れたことなさそうなのに。
(今日だけでさァ)
(ありがとうございます、沖田さん)
(…お疲れさん)
(え!)
(っ、何でもないでさァ!)