いろはにほへと ちりぬるを
女中波乱篇 05


ドーン!! バンッ!! ドカン!!

食後の微睡みの中突然の爆発音。いつもの爆発音の原因である沖田は、巡回の為に土方に引きずられ土方の二人で夜の巡回中。近藤は大切な用事があると今日は(毎晩)いない。
爆発の後のけたたましい警報と同時に沢山の足音が聞こえる。侵入者を削除していた矢先、休憩室で震え動けなくなった女中を見つける。このままだと敵に見つかる。咄嗟に近くあった物陰に引っ張り女中を背中に隠す。


「ちょっ!」

「静かに、」


足音は真っ直ぐこっちに向かっている。あちらこちらから聞こえる戦闘音に小さく舌打ちをしたその時だった。


「みーっけ」

「敵陣の真ん中にいるのに余裕だね」


敵の男が物陰に隠れていた私たちを見つけて、無精ひげの生えた口元を不気味に歪ます。剣を抜く男に習い私も直ぐに剣を構える。視界の端で女中が物陰で座り込んでいるのを確認し、間合いを取ると同時に出来るだけ離れ、戦闘に巻き込まないように気を付ける。


「嬢ちゃん。その制服に刀を構える姿、真選組か?」

「聞くまでもないでしょ?」

「女の刀が男に勝てる訳ねぇだろ!がはは!悪いことは言わねぇ、刀を置いて大人しくその物陰で震えている嬢ちゃんと人質になれ」


下品な笑いと共に男の言い分を聞いて怒りはあるが、いやに冷静であった。女が舐められるのはもう慣れている。今はこの状況をどれだけ上手に回避するかである。


「っく!」


仕掛けたのは私。上段への斬り込みと大きく見せて、男が上段の防御に構えた瞬間に身体を縮めて脇腹への攻撃に切り替える。ぎょっと態勢を変えた男には数センチの裂傷。眼光が鋭くなった男がギリギリと悔しそうに歯ぎしりしている。
私は剣を鞘に直し腰を落とす。何度か深呼吸を行い作戦を練る。ここで時間を割くわけにはいかない。次で決める。


「はぁ!!」


姿勢を低く斬りかかればニヤリと笑う男の口元。あと少し、


「待って!この女がどうなってもいいのか!」


刀はあと数ミリで男の喉元に到達する位置でピタリととめられている。目の前の男に注意したまま視線を動かすと他の男に刀を向けられた女中が視界に入る。


「形勢逆転だ。刀を捨てろ」


ギリギリと柄を握り絞めて。男の言う通り刀をおろし畳の上に刀が落ちる音が響く。女中を人質にした男がゆっくりと近づいてくる。目の前の男はニヤニヤと下品な笑みを浮かべるだけ。気持ち悪い。


「よし、嬢ちゃん。その刀を拾え」


女中に命令した男が女中を解放した。その瞬間、


「ぐはっ!」

「やろー!舐めやがって!」

「ッく、はあぁぁぁぁ!」


女中が刀に触れる瞬間に女中の身を左腕で抱え右に持った刀で男を斬り捨てる。背後の男がキレて私の背中を斬るが、肉を斬らせて骨を断つという言葉通り痛む背中を無視し身体を回転させ背後の男の腹を掻っ捌く。
男の血飛沫が飛ぶ中聞こえた、二人の上司の怒鳴り声に安心する。このまま、上司に任せてしまおう。ちょっと、頑張りすぎた。


「っ、いてて」

「みょうじさん…」

「大丈夫ですか?怪我は?」

「私は…みょうじさんの背中が」


泣く女中に大丈夫であると笑顔を作る。怪我最近多いなぁ、この前の怪我治ったところなのに。なんて、自称気味な笑顔を作る。


「何笑ってるんですか!」

「え」

「私、先輩たちがみょうじさんに酷いことしていたの知っていたんです。というか、私もみょうじさんの存在を無視していました」


この娘…素直だけど、素直すぎる。無視していたって本人目の前にして普通言う?それに、大人しい顔して怒鳴ると怖い。


「でも私を救ってくれたみょうじさんを見て反省しました。ありがとうございました。あの、宜しければこれからもお願い致します。」


(知らなかったのはお互いさま)
(奇襲事件が収まる頃もう一つの長い事件が収まった)


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