いろはにほへと ちりぬるを
女中波乱篇 02

「やあっ!」

「脇ががら空きだって言ってるだろ!」

「っ!」


土方の打ち込みを脇腹に受けよろけるなまえ。強い打ち込みは防具など意味をなさない。なまえは2、3歩よろけた後、膝を着く。


「休憩だ」

「…はい」


何時ものなまえではない事くらい土方には分かっていた。足の出し方、踏込、振出。どれをとってもいつものキレはなく身体を庇った動きをしているのは明確であった。そして、振り上げた腕に見えた痣。一か所ではく肌蹴た胸元、袴から見える足にも痣が見えた。激しい動きをしなければ見えない箇所ばかり赤黒く腫れ上がっている。なまえに何が起こっているなんて浅い想像は直ぐにできる。くだらない。しかし、土方が動いたところで状況が悪くなることくらい“フォロ方”と呼ばれるフォローの達人、土方には分り切っていた。

そもそも根本的に、女と男。隊士と女中では考え方、立場が異なるのだ。
女中は人の為に世話をする
隊士は人を殺し、“未来”を奪う

#nameが#剣を持ったのは、物心つくずっと前。赤く酷く汚れた世界しか知らなくて生きるために戦わなければいけなかった。斬らなければ斬られる。殺さなければ殺される。そんな世界。一日、一時間、一瞬を生きるのに必死だった。
でも、憧れていた。綺麗な着物に身を包み誰かに愛されることを。食べて、お風呂に入って暖かな布団で寝る。そんな、当り前の生活に。でも、時代が環境がそれを許してはくれなかった。なまえは、剣を持ち戦うことでしか己を皆との絆を持てなかった。

闘志のないなまえを見下ろし土方は道場から出た。なまえは竹刀を握りしめる。強く握り絞めて白いはずの持つ部分が赤く変色している。


◇◇◇

「トシ、」


稽古を終え、事務処理のため自室にいた土方のもとに珍しく近藤自ら訪れた。土方には近藤が訪れた理由に検討がついていたので驚く様子もなく煙草を吹かし、向き直った。


「お前を気づいているだろう?なまえちゃんと女中たちのこと」

「ああ」

「なまえちゃんは慣れない真選組に来てあんな仕打ち…」


優しい近藤は俯き何とも言えない苦しい表情で拳を握りしめる。身内のことである何も出来ていない自信を戒めているのであろう。


「それがどうした近藤さん。女の争いに間入る気はねぇし、なまえを助けてやる義理もねぇよ。それに、俺たちが なまえの肩持つことで余計に女中たちの火があいつに向くんだ」

「トシ、」


煙草をふかし書類整理を続ける土方。近藤は何も言えずそのまま立ち尽くす。


そう、これは#neme#自身の問題である。


(今日の空は曇天)
(泣くのを我慢しているみたい)


back next
あさきゆめみし ゑひもせすん