荒北:マーマレードの恋予報
side:花咲芽依

「え?白波サン横浜なのォ?」
「うん、横浜出身で、今はこっちで一人暮らししてるんだけど」

よしよし、なんだか2人盛り上がってきたみたい。荒北には彼女は動物が好きだということとか、福ちゃんのこと知ってるからその話もできるよとか、色々事前に叩き込んである。

隼人も同じように2人を見ているみたいで、良かったね、なんて、目で話しながら、なんだかんだ7年の付き合いになるこの目つきの悪い彼が、1ヶ月前に私たちに初めて見せた真っ赤な顔を思い出す。

高校時代のチームメイトの荒北に亜梨沙を紹介してくれと言われたのは社会人になって初めて荒北と会った時だった。

なんでも前から私がよくみんなで集まると彼女の話をしていて、随分いい子なんだなと思っていたところに、卒業式の時の写真を見せられて、可愛いと思ったとか。すごい照れながら「芽依チャン、お願いシマス…」と隼人と3人でご飯を食べた時に言われた。そんな荒北が珍しすぎて隼人は口に入れかけていた枝豆を落としていたし、私は危うくビールの入ったジョッキを倒すところだった。

「ちょっと…え?荒北、えー!?」
「ヒュウ、そんな靖友初めて見た」
「ッセ!ダァー!!だから言いたくなかったんだヨ!」
「別に私たち言ってなんて頼んでない」
「ッセ」
「そんなうるさいうるさい言われたら紹介してやんないぞ」
「アァ!?アー、ゴメンナサイお願いします芽依サマ」

真っ赤な荒北を見て隼人が「写真撮っていい?」と言うと前の席からゲンコツが飛んできて隼人が涙目になっていた。

「しょうがない、大切な元チームメイトのために一肌脱いでやろう」
「脱ぐのは俺の前だけだろ?」
「そういう意味じゃない」

酔っ払い隼人のボケは放っておいて、一先ずすぐに亜梨沙とのご飯の約束を取り付ける。

「今度、亜梨沙に会った時に聞いておくね」

そう話してから暫く、出かける前に散々隼人に「不自然にならないように誘えよ」とか「靖友が紹介して欲しいって言ったのはとりあえずは秘密にしてあげろよ」とか色々うるさく言われて向かった彼女とのご飯でどうにか約束を取り付けた。

大好きな友人と信頼できる元チームメート。うまくいくといいなと2人を会わせる前日はウキウキしながら、部屋に来ていた隼人が好きなチキンカツを山盛り揚げて。「何かいい事あったのか?」なんて隼人に聞かれたから明日が楽しみでと話したら彼に笑われた。

「え?荒北くん実家で犬飼ってるの?」
「そう、写真見るゥ?」
「見たい見たい!私も飼ってるんだよ〜、一人暮らし始めてから会えてなくてさ」

2人で盛り上がっている様子を見るに、亜梨沙の荒北への印象も悪くなさそうだと感じる。

「芽依は会ったことあるよね?」

ふとこちらを向いて亜梨沙が私に話しかける。どうやら彼女の実家で飼っている犬の話をしているらしい。

「うん、あるある!大学生の頃は亜梨沙の実家よくお邪魔したもんね、荒北のアキチャンは写真でしか見たことないけど」
「アキチャンって言うんだ?」
「そうダヨ」
「荒北はね、アキチャン大好きでアドレスにもアキチャン入れてるから」
「えー!私もポチって入れてるよ」
「ポチって名前なのォ?」
「そう!柴犬でね、すごい可愛いの」

そう言いながら彼女がスマホを荒北に見せる。うんうん。いい感じ。

隼人はニコニコとそんな光景を眺めながらお酒を飲み、こちらを向く。

「俺たちも何か飼う?」
「どこで?」
「2人で住んで」
「はい、やだ」
「おめーら、イチャイチャすンな」
「あはは、新開くんまた芽依に同棲断られてる」

私はあまり結婚前に同棲はしたくなくて、社会人になる時に隼人に提案された同棲を一度断っていた。それからも懲りずに彼は何度も提案を続けている。

「なかなか芽依が首を縦に振ってくれないんだよ」
「ンなら諦めろヨ」
「だって絶対隼人にイライラしちゃうもん」
「そんなこと言ったら結婚できないだろ?」
「する気あんの?」
「いつか」
「あ、ここでプロポーズとかやめてね」
「新開くん大胆だね」
「隼人が一人暮らしできるようになったら考えるよ」

寮で暮らしていた彼は多分、初めての一人暮らしに四苦八苦していて、彼の部屋に行く度に溜まっている洗濯物に苦笑いしてしまうし、まだまだ前途多難だな、なんて思っている。

「はー、ケチ」
「ハイハイ、ほら隼人、ビール注ぐよ」

口を尖らせている隼人に笑いかけて彼のグラスにビールを注いだ。

「コイツら、大学でもこんなンだったの?」
「んー、そうだね、あと芽依はお酒が入るとすごい惚気る」
「ちょっと!亜梨沙!」
「ヒュウ、その話聞かせてくれ」
「いいから!」
「ハッ、ンとにお前ら2人は」
「高校の時は?どんな感じだったの?」
「ンー、そだなァ、明らかに両思いなのに2人でモダモダモダモダ、見てるこっちがうずうずする感じィ?」
「えー、意外」
「ンで付き合い出す時は福ちゃんがァ」
「あ、福ちゃん、福富くんのこと?」
「そっか、知ってンのか」

2人の話題は私たちのことから福ちゃんのことに移ったらしい。

それからも2人はそんな昔話以外にも今の仕事の話だとか、休日行く街の話だとか。なんでもよく亜梨沙が買い物に行く場所に荒北もロードで週末出かけていると意気投合していた。

途中、それぞれがお手洗いに立った隙に印象を確認してみればどちらと好感触で。私たちが手伝えるのは出会いまでで、後は2人の自由だけど、もしこのまま2人が幸せになってくれたらいいななんてそんなことを期待してしまいながら、そのまま4人で色々な話をしてお酒を進めた。

「そろそろ、お開きにするか」

隼人が時計を見てそう提案する。去年の誕生日に隼人からもらった腕時計を確認すると時刻は22:00を指していた。

「ここは俺と靖友で払うよ」

そう言って隼人はお会計をするためにベルを鳴らす。亜梨沙がそれは流石に悪いと話して、私たちも少しばかりの金額を払った。

「ごめん、私ちょっとお手洗い」

亜梨沙が席を立ち個室のドアを閉めたのを確認して、荒北に目をやった。

「荒北、楽しそうだったねぇ」
「芽依チャン、ニヤニヤしすぎ」
「どうなんだ?靖友」
「アー、良い子なンじゃねェの?」
「そんなのはわかってるよ!亜梨沙は私の自慢の」
「そうでしたァ」
「で?どうするんだ?連絡先くらいちゃんと自分で聞けよ?」
「わァッてンよ」

荒北が女の子とこんな風にしているのを初めて見たから本当に新鮮で、口元の緩みが止まらない。

「芽依チャン、顔緩みっぱなしィ」

そう言う荒北の顔はほんのり赤くて、隼人がその顔を見て「おめさんの顔もなかなかだぜ」なんて笑っていた。
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