隼人:ミニスカに正義を信じます
side 明早大学自転車競技部部員

王者箱根学園でエーススプリンターだった新開隼人とここ明早大学で知り合い、随分と人懐っこい彼とはあっという間に仲良くなった。

楽しそうに彼女でマネージャーの芽依ちゃんと話している姿も、もう見慣れたものだ。

「芽依、今日部屋行っていい?」
「んー?今日は部活終わったあとバイト」
「え?芽依ちゃん、バイト始めたんだ?」

芽依ちゃんもとても明るくて新開が周りの男に向ける厳しい目つきに気付いているんだかいないんだか、誰とも分け隔てなく話してくれるいい子だ。

「うん、そうなの」
「へー、どこ?」
「駅前のCafe dólceっていうカフェなんだけど」
「えっ!知ってる知ってる、めっちゃ制服可愛いとこでしょ」
「可愛いよね〜、私もお気に入り」
「制服可愛いんだ、なおさら見たいな」
「え?新開あそこ知らないの?」
「だって芽依が来るなって言うから」
「まじで知らない?聞いたことない?」
「隼人はそういうの興味ないもんね」
「芽依が着てるなら興味津々だぜ?」

そう呑気に話す彼を見て、「はいはい」とあしらうように笑った彼女が部室を出るのを確認して隣の男に話しかけた。

「いいのかよ、新開」
「え?」
「そこのカフェ、可愛いめの女の子しか雇わないって噂」
「何言ってんだ?」
「制服もフリフリのミニスカだし、なんつーの?こうね、あと少しで!あと少しで胸の谷間が…見えそうで見えない!って話題だぜ」
「は?」
「だから、それ目当てで男性客めっちゃいるんだよ、まあ、向こうは普通のカフェとしてやってんだろうけどさ、この辺ではそういう密かに目的で通う男もいるっつーこと」

先月オープンしたそのカフェは制服が可愛すぎるとこの明早大学の男子学生の中で話題で、それでいてスタッフの女の子たちもそこそこの容姿以上の子しかいないと、足繁く通ってはナンパを試みたりする奴らがいることは事実だった。

「…で、お前は行ったのか」

そう、親切心で伝えたというのに…
この男の言葉の意は『俺が芽依ちゃんのそのミニスカウェイトレス姿を見たのか』ということだろう。良かれと思ったのになぜ俺が睨まれなければならないのか。

「…芽依ちゃんが働いてるところは見たことないから、睨むなって」

事実を伝えると「行くことは行ったのか」と険しい顔を少しだけ綻ばせて頷いた彼が時計を見る。

「芽依、バイト何時からだろう」
「聞いてみればいいんじゃね?」
「言ったら来るんでしょって言われる」
「お見通しだな」
「なぁ、お前今日部活終わったあと暇?」
「……付き合ってやるよ」

そう言うと彼は鋭い目をしたまま口角を上げた。

***

「いらっしゃ………ませ」

俺たちの顔を見て一瞬動きが停止してわかりやすく顔を引きつらせた芽依ちゃん。

「2人です」

笑顔で彼女に新開が人数を告げる。

「………かしこまりました」

前を歩く彼女に続いて、席へ向かう。

「お姉さん、随分可愛い制服ですね」

笑顔を崩さないまま彼女に声をかけるこの男。周りの客には聞こえない、ギリギリ後ろを歩く俺に聞こえるくらいの絶妙な音量で話を続ける。

「…ありがとうございます」
「少し丈が短いんですね」
「…そうですか?」
「胸元も開きすぎかなあ、誘ってます?」
「いいえ」
「もしかして、お客さんにナンパされたりして」

あくまで他人行儀を貫くつもりらしい彼の方をバッと振り向き、芽依ちゃんが口を開く。何か言い返すのかと思いきや。

「お席、こちらになります、メニュー、ただいまお持ちしますね」

営業スマイル全開だ。

「メニューもお姉さんに持ってきてほしいな」
「言われなくてもそうさせて頂きます」

表情を変えずそう伝えると彼女が俺をちらりと見る。普段女神様のように優しい優しい芽依ちゃんが、俺のことを睨んできて思わず顔が引きつってしまった。

席に着くなり、新開も俺もテーブルに顔を突っ伏す。

「なあ、今絶対俺、芽依ちゃんに睨まれた」
「なんだよ、あれ、スカート短すぎだろ」
「どうしよ、芽依ちゃんに嫌われたくない…」
「胸元も開けすぎだし」
「はあ…いつもはあんなに優しいのに…」
「あそこの席の男、今絶対芽依の脚見た、はあ?ムカつく、ちょっと行ってくる」
「…ちょちょちょ!ストップ」

全く会話が成り立たないこの男が席を立つ3秒前にどうにか奴の腕を掴んで。

「おめさんは芽依のこと見るな」
「接客しにくるんだから見ないわけいかないだろ」
「はあ…最悪かよ…」

頭をガシガシと掻き毟るその男と芽依ちゃんの怖い顔が頭から離れなくなった俺の元へ、相変わらず営業スマイル全開の芽依ちゃんがやってきた。

「お待たせしました」

バン、と少し雑に俺たちの前にメニューを置く。

「…おすすめは」
「そうですね、このチョコバナナパフェは人気ですよ」
「俺、チョコバナナ好きなんですよ」
「そうかなって思いました」

怖い、怖い。二人の笑顔の会話が怖すぎる。

「なあ」
「はい?」
「何時まで?」
「何がですか?」
「バイト」
「プライベートのことはお話しできないんです」

芽依ちゃんがそう言うといよいよ貼り付けた笑顔を崩して随分と不機嫌な顔をした男が続ける。

「何時まで」
「…」
「なあ」
「はい?」
「何時までだって」

静かに笑顔を作り直した芽依ちゃんが小さく息を吐いて小声で言葉を発した。

「21時」
「じゃあそれまでいよっと」
「…だめ」
「良いだろ?」
「こんな女の子ばっかのところにずっといないで」

………ヒュウ。なんて、新開のような言葉を発したくなるくらい、突然二人の空気が甘くなる。

彼女の発言の意図を理解した新開が思わずデレッと口元を緩めて。

「じゃあLIME入れとく」

彼女が困ったように頷いたのを確認した新開が、チョコバナナパフェを注文すると、芽依ちゃんが俺に「何にするの?」といつもと変わらない笑顔で問いかけてくれてホッとした俺はモンブランを頼んだ。

「ほんとにカフェにしちゃ、男が多いな」
「だろ?でも可愛いよな、確かに」
「芽依が着てりゃなんだって可愛いんだよ」
「…そりゃご馳走様」
「でも他の男がそれを見るのは許せないな」
「あんまり束縛すると嫌われるぞ」
「さて、どうすっかなぁ…」

噛み合ってるような噛み合ってないような会話をしながら芽依ちゃんが持って着てくれたデザートと「おまけ」と出してくれたコーヒーを頂く。

結局20時頃にカフェを出て、近くの行列ができるラーメン屋に並んで新開と二人豚骨ラーメンを食って。

「隼人」

21時すぎ、芽依ちゃんと無事合流することができた。

「お疲れ」
「なんで来たの」
「ん?コイツが行こうって」
「は!?俺!?言ってないだろ!?」

芽依ちゃんの冷たい目が、新開を連れてきたら面倒なことになるのわかってるでしょ、とでも言いたげで。

「お、俺、帰るわ…」
「おう、ありがとな」
「またお越しくださいませ」

怖い笑顔のまたお越しくださいは、どうやら二度とくるなと言う意味らしい。

「な、芽依制服持って帰ってきた?」
「ん?うん」
「じゃあ家で着て」
「はあ?」
「どうして俺が怒ってるかちゃんと分かってもらわないとな」

せめて俺に聞こえない距離で話してくれ、と、どうやらこの後はお楽しみらしい二人を振り向いて見てみればもうこちらなんて見ていなくて、芽依ちゃんの腰に手を回した新開の目は宝物を誰にも奪われたくないと駄々をこねる子供のようで。

「……ったく、なんなんだよ、あいつら………」

ああ、なんか俺も合コンでもすっかな、と結局仲の良い二人を見せつけられただけの俺は一人寂しく帰路に着いた。

***

「あれ?芽依ちゃんどうしたの?」

翌日、随分と歩きにくそうに腰を抑えながら歩く芽依ちゃんと部室前で遭遇して声をかけると、昨日のように、いや、昨日よりも厳しい目で睨みつけられた。

「誰のせいでこうなったと思って…」
「よ、芽依大丈夫か?」

今にも芽依ちゃんに罵声を浴びせられるのではないかと思った瞬間、後ろから随分と上機嫌な男の声が降ってくる。

「…隼人…」
「芽依、ちょっと腰が痛いみたいでさ」
「……………報告いらねー」

聞きたくもない報告を新開に聞かされゲンナリする俺と、その男の頭をペシンッと叩いた芽依ちゃんと、相変わらずヘラヘラ笑う新開と。

「バイト続けるの?」
「うん、一応暫くはね」
「新開許したんだ?」
「納得してるのかは知らないけど」
「してねーよ」
「はいはい」
「来年の俺の誕生日までって約束」
「まだ結構あるな」
「やっぱ辞めない?」
「辞めなーい」

こんな日も悪くないな、と思いながら部室のドアをノックした。
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